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彼の車が駐車場に停めてあったので、それに乗って帰ることにした。谷原さんは岩本さんが連れて帰ってくれるらしい。



車が大好きな彼は、たとえヘビースモーカーであっても車の中でタバコを吸ったりしない。そのおかげでタバコがダメな私には助かる、空気も状態もきれいな車に乗ることが出来る。




それはさておき、さっきまでの状況が状況だけに何となく会話しにくい。エンジンをかけてとりあえず彼に話し掛けてみた。


「車、新しく買ったんですね」


「車好きだしね…あれから5年も経てば変えたくもなるよ」


「最近買ったんですか?」


「んー…今年に入ってからだったかな?そんなに経ってないと思う」




あの一緒にドライブに行ったり旅行に行ったりした車はどうしたの?

そう聞こうとして、何となく聞きにくくなったからやめた。



じゃあ、この5年間、どんな車に乗って、どんな所に行ったんだろう。


…誰と?


余計なことを考えてしまったばっかりに気分が悪くなった。いつから私は嫉妬深くなったんだろう。恥ずかしくてみっともなくて、こんな話彼には出来ない。



ずっと黙って運転していたからか、彼が前を向いたまま話し掛けてきた。


「そういえばさ、薫プジョーの車じゃないよね」


こういう会話をしてるとホントに車が好きだな、と微笑ましく感じてくる。そう考えるとこの業種で良かったなと思う。…別にそれだけじゃないけど。


「まあ…三菱の車です」


「社割とかないの?」


「…いくらすると思ってるんですか?」


私の言葉を聞いた途端、彼がいきなり笑いだした。


「薫面白いよねー」


「どの辺がですか」



昔から別に面白いことは言ってないのに、大学時代もある日を境にこんな扱いをされるようになった。


「そうやってすぐムキになるところ」


「なってません」


「薫いっつもさ、俺が求めてる反応をしてくれるんだよね」


そして毎回こう言われる。みんなどんな反応を求めてるんだろう…その辺がよくわからない。



「大学生の頃先輩に言われてました」


「あれ?学生の時って先輩にいじられてなかったよね?」


「それがですよ、あれから方向オンチとか天然とか、挙げ句の果てにはバカとまで言われ続けて…反論してたら毎回そう言われてたんです」


「ね、薫いじられキャラだってあの時言ったでしょ」


「新一さんからだけと思ってました」



あの頃はホントにそう思っていた。先輩たちにいじられ始めてから『車校の先生にも同じネタでいじられてました』と言うと、毎回のように『そりゃそうだろ』と言われた。


「求めてるような反応されるとね、なんか面白いんだよ」


たぶん先輩たちはこう言うことを言いたかったんだろう。でも毎回私が答えるのは一つ。


「面白いことなんて言ってませんけどね」



すると、彼がいきなり頭をくしゃくしゃっとしてきた。そのせいで髪の毛がぐしゃぐしゃになる。


「むあー、運転中ですよ!」


「はー…ウケるー…」


「どの辺がですか」


「いや、だからね」



彼がそう言ったあとちょうど信号が赤になったので隣を振り向くと、いきなりキスをされた。結構アルコールの味がする。



「そうやって求めてる反応してくれるとこ」


いきなりこんなことされて、こんなこと言われて、顔がかあっと熱くなるのがわかった。見られたくなくてすぐそっぽを向く。


「先輩にさ、S心をくすぐるって言われなかった?」


「言わ…れ…ましたね」


「ね?薫Mだから」


「むーん…」


「違ったね、ドMだったね」


「違います!」


彼が大きな声を上げて笑った。彼の思うツボになってる気がして、何だか面白くない。





かと思えば彼がいきなり喋らなくなった。何か考え事でもしてるっぽい。


「何いきなり黙ってるんですか」


「よし、敬語禁止」


彼は私の肩をぽん、と叩いてこう言った。発言内容の意図がわからない。


「は?」


「嫁さんが旦那に敬語でどうすんの」


「嫁さんって…」


「いずれ結婚するんでしょ、俺たち」




何てムードのかけらもない…。普通なら気持ちが高揚するところが、こんな言われ方をすると疑いしか出て来ない。



「…奥さんが旦那さんに敬語で話してる家庭もあるみたいですけど?」


「少なくとも俺はやだね」


「はぁ…」


「よし、1敬語1お仕置きね」


「は?」


「しばらく夜は寝かせれそうにないねぇ」


心なしか嬉しそうに彼が言った。お仕置きの意味を悟って、あまりの恥ずかしさに肩に置かれた彼の手を振り払う。


「そんなことないです。ちゃんと寝ますもん」


「はい2お仕置き」


「あ」



しまった、うっかり…。

まあでも大したことなさそうだし別にいいか、と思って軽く息を吐くと、彼からトドメの一撃を与えられた。



「言っとくけど、一回のお仕置きってそんなすぐに終わらせるつもりないからね」


思わず彼の方をばっと振り返った。


「ばか!変態!」





この時、スピードが今だにあまり出せないはずの私の車は70km/hを指していた。


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