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駐車場に止めてあった俺の車に彼女が乗り込んだ。結果的には車で来てて良かったなと思う。



エンジンをかけながら彼女が話し掛けてきた。


「車、新しく買ったんですね」


「車好きだしね…あれから5年も経てば変えたくもなるよ」


「最近買ったんですか?」


「んー…今年に入ってからだったかな?そんなに経ってないと思う」



そう言って俺は自分の体を助手席のシートに預けた。





職業柄毎日運転する彼女は、あの時とはかけ離れてるほど運転が安定していた。あのあと岩本からもらったウコンを飲んだおかげで気分が少し楽になったのもあって、心地よい眠気が襲ってくる。


が、大の男が爆睡したのを彼女が運び切るはずがないとわかっていたので、頑張って起きてようとしてみた。


「そういえばさ、薫プジョーの車じゃないよね」


「まあ…三菱の車です」


「社割とかないの?」


「…いくらすると思ってるんですか?」



彼女の反応に笑ってしまう。この居心地の良さはあの頃と全く変わってない。


「薫面白いよねー」


「どの辺がですか」


「そうやってすぐムキになるところ」


「なってません」



ちらっとこっちを向いたあと、彼女は再び前を向いた。赤信号になり、車が停まる。



「薫いっつもさ、俺が求めてる反応をしてくれるんだよね」


「大学生の頃先輩に言われてました」


「あれ?学生の時って先輩にいじられてなかったよね?」


「それがですよ、あれから方向オンチとか天然とか、挙げ句の果てにはバカとまで言われ続けて…反論してたら毎回そう言われてたんです」




俺しか知らないと思っていた彼女の一面が他の人にも知られていたことが、何となく悔しかった。それでも他の人が絶対知らない一面を知ってる自信はある。



「ね、薫いじられキャラだってあの時言ったでしょ」


「新一さんからだけと思ってました」


「求めてるような反応されるとね、なんか面白いんだよ」


「面白いことなんて言ってませんけどね」



またそうやってムキになるのが面白くて、彼女の頭をくしゃくしゃっと撫でた。


「むあー、運転中ですよ!」


かっこいい女性の部類に入るだろう彼女の外見からは想像出来ない反応に、思わず笑ってしまう。


「はー…ウケるー…」


「どの辺がですか」


「いや、だからね」



そう言って信号停車した時、彼女の唇を素早く奪った。



「そうやって求めてる反応してくれるとこ」



暗闇で顔はあまりわからなかったが、信号が変わったのもあってすぐそっぽを向かれた。


「先輩にさ、S心をくすぐるって言われなかった?」


「言わ…れ…ましたね」


「ね?薫Mだから」


彼女はむーん、と言って口を尖らせた。彼女の反応についつい笑ってしまう。


「違ったね、ドMだったね」


「違います!」


こんな反応ばっかりされると面白くて面白くて仕方ない。先輩たちも俺と同じ風に思ってたなら、谷原も同じことを思っていたんだろうか?


それを考えたとき、話してる限りだと見た目とは裏腹にドSな奴だった気がしたから、谷原にとってはいい相手だったのかもしれないが、結果論取られなくてホントに良かったと思う。



そして、ホントに求める彼女の反応は、一生俺しか知らない。





「何いきなり黙ってるんですか」


運転席の彼女か小突いてきた。俺はぽん、と彼女の肩に手を置いた。


「よし、敬語禁止」


「は?」


「嫁さんが旦那に敬語でどうすんの」


「嫁さんって…」


「いずれ結婚するんでしょ、俺たち」




こんなあっさり言っていいのかわからないが、一つ言えるのはムードのかけらもないだろうということ。別に彼女はロマンチストじゃないから特に問題はないが。



「…奥さんが旦那さんに敬語で話してる家庭もあるみたいですけど?」


「少なくとも俺はやだね」


「はぁ…」


「よし」


そう言って彼女の肩を軽く叩いた。彼女は少しだけこっち側を向いた。


「1敬語1お仕置きね」


「は?」


「しばらく夜は寝かせれそうにないねぇ」


彼女はにょ、にょ、と不思議な言葉を発しながら俺を払うかのような仕草をした。


「そんなことないです。ちゃんと寝ますもん」


「はい2お仕置き」


「あ」


彼女は自分の手の甲を唇にあてた。それでもすぐに雰囲気的に『まあ別にいいや』みたいになった彼女にトドメの一撃を与える。



「言っとくけど、一回のお仕置きってそんなすぐに終わらせるつもりないからね」


彼女はばっと振り返って俺に向かって大声を出した。


「ばか!変態!」






そして結局、俺も彼女も寝不足のまま翌日仕事に向ったのは言うまでもない。


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