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何だか気分が悪い。寝心地も悪いし、すごくけだるい。吐き気もするし…。


「う…ん…」



開けたくない目を懸命に開けた。周りは真っ暗で、前からだけ光が射している。


「んん…」


ゆっくり体を前に倒すと思わず吐きそうになって、とっさに右手で口をおさえた。



「新一さん!」


その時、聞こえるはずのない彼女の声が聞こえた。吐くのを我慢するために必死で顔を上げられず、彼女が本当にこの場にいるのか、それとも幻聴なのか、それは確認出来ない。




何で俺がこんな目に遭わなきゃいかんのだ。そう思った次の瞬間、右側から車のドアが開くような音がし、ふわりと温かいものが俺の体を包んだ。


心地いい心臓の音。苺のような甘い香り。


「新一さん」


そして、全てを包み込んでくれるようなやわらかい声。他の誰でもない、彼女だ。



「薫…」


惨めな姿を晒しながら彼女に体を預けた。彼女は俺にハンカチを差し出し、背中をゆっくりとさすってくれた。


「情けないな、俺…」


「そんなことないですよ」


小さくて柔らかい手が俺の手をそっと握る。


「たくさん飲んだんですね…疲れたでしょう?」


そして背中をさすっていた彼女の手が、俺の髪をそっと撫でた。


「帰ってゆっくりしましょう…ね?」


「薫…」


何故だか涙が滲み出てきた。彼女の胸に身を寄せ、そっと目を閉じた。





と、ここまでは良かった。


彼女に涙は見せまいと俯き、そっと目を開くと、何故か俺の膝に谷原の頭があった。思わずばっと左の方を見ると、どう考えても谷原に膝枕をしてやっていた。



「…何で…?」


ていうか、ここどこ?これは彼女の車じゃない、誰かの車…それも俺が乗ったことのない。



「あぁ、さすがに二人を横には出来なかったんで、まだ軽症のあなたに座ってもらいました」


運転席からひょこっと男が顔を出した。確か…電話で谷原の名前を呼んでた人だ。


「えーと…」


「岩本雄大です。谷原がお世話になってます」


岩本さんはそう言って軽く会釈した。言われてみれば合コンの時この人いた気がする…。


「えっと」


気分が悪いのを必死で我慢して喋ろうとすると、彼女がそっと背中に手を添えた。


「彼、内村新一って言います」


「あぁ、噂の内村さんですね」



誰が噂してんだ、誰が。そう言おうと思っても、気分が悪すぎてまともに喋れない。


「谷原から話は伺ってます」


「はぁ…」


「谷原とは香西さんのお話をしたんですか?」



不意を突くような質問に思わず身を前に出した。気分の悪さに口元をおさえると、彼女がすぐに手を背中に添えてくれた。


「…っ、だとしたら、何なんです?」


「いえ」


岩本さん…いや、なんか頭にきたから岩本でいいや。とにかく岩本がくすっと笑って前を向いて座った。



「その節は谷原がご迷惑お掛けしました」


コイツはどこまで知ってるんだろう。そう思いながら黙って耳を傾けた。


「香西さんはホントに素敵な女性です。真面目で、謙虚で、知的で、凛としていて、でも儚く脆い…そう谷原から伺ってます」




谷原は彼女のことを想っていただけあって、よく理解していた。谷原の言ってたとおり、彼女は誰よりも強く、誰よりも弱い。だからこそ、俺が傍にいて守ってあげなきゃいけないんだ。



「香西さんを幸せにしてあげてください。それが谷原と私からのお願いです」


「もちろんです…彼女は一生かけて幸せにします」


「香西さんをよろしくお願いします」



岩本がまたこっちに身を乗り出し、ドラマやCMでありそうな爽やかな笑顔を向けた。





そしてちょうどその時、膝の上の谷原が少し動きだした。


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