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…寒い。異常に寒いとしか言いようがない。
せっかく担当になったのに、こんなに大雪じゃ教習中止になるかもしれない。
あまりの寒さに身を小さくしながら配車へ向かう。
いつものように彼女が運転席に座っている。
「こんにちは、発車していいよ」
「はぁ…お願いします」
彼女が横でいそいそと準備をしている。今だ。
「昨日ウチから下山までの行き方覚えた?」
「…いや…」
「何でよ!わざわざ香西さんのために下山までの最短ルート通ったんだよ」
「…寝てました」
彼女が苦笑している。
「何でよ!せっかく香西さんが道覚えれるようにってしてたのに」
彼女が笑いながら反撃をして来た。
「やっぱりそうだったんですね。違う道通ったでしょう?
さすがに道違うのわかりましたもん」
さすがにって…俺の親切心は皆無か。
「駐輪場の横通ったでしょう?
あそこを左に曲がれば家の近くだったんです」
「あ、そうなの?」
大体の検討がつく。
「だから『そこで停めてー!』って言いたかったんです」
彼女以外にも生徒がいたからそれは無理な話だった。可哀相なことをした気分だ。
しばらく二人とも無言で車を進めていく。
いつも会話の始まりは俺の不思議な呼びかけだ。
「お姉ちゃんにこき使われてる香西さん」
彼女が笑ったあと軽く咳ばらいをしてはい、と言った。
俺はその反応に笑うしかない。
「『超』方向オンチの香西さん」
「だから、好きで迷ってるんじゃないんですって!」
「あ、好きで迷ってるんじゃないんだ」
彼女は笑ったような拗ねたような、また不思議な感じだ。
「それにしてもさ、可哀相に…こき使われてるんでしょ?」
「う…いや、料理はしてくれますけど…」
『けど』
「掃除とかは香西さんがするんだろ?」
「…まあ」
彼女があの後の苦労話を語る。大変そうだ。
「そんでもって弟からも使われるんでしょ?」
「…実家に帰ったら…」
性格良すぎるんだよ、香西さん。
いかにも面倒見が良いんだもん…もっと自分に時間を使ってほしいくらいだ。
「しっかし…雪酷いな…」
その言葉に彼女が黙る。
反応に困ってるんだろうか…
とにかく、この雪のせいで教習が中止になるような事だけは避けたい。
もっとも危険を感じた場合は中止にするのがお互いのためだが。




