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珍しく彼の方がまだ寝ている。まあ…昨日仕事だったし、夜遅かったし。私は今日休みの彼と違って仕事があるから意地でも起きなきゃいけない。
実家から送られてきた圧力鍋を使って朝からカレーを作った。こうしておけばわざわざ帰ってきてから作る必要もないし、何より時間が経つから味に深みが出る。彼の分を少し取り分けて、今度は朝でも食べやすいようにと人手間かけて朝カレーを作った。喜んでくれるかな…そう思うだけでも笑顔が出来る。
メモを残して家を出た。
今は完全に週末が休みだけど、もう少ししたら営業部の方で販売所のセールス担当になりそうだ。そうしたら…私は確か火・水が休みになる。
彼は大体休校日の月曜以外は火曜に休暇を取っているので、火曜の休みがかぶるかもしれない。そうすればきっと、二人の時間がもっともっと取れるだろう。
車から降りたとき、ちょうど彼から着信があった。噂をすればなんとやら…思わず笑ってしまう。
「もしもしー?」
『おはよ』
彼のやさしい声が心地よい。自然と笑顔になる。
「おはようございます」
『カレーって意味わかんないんだけど』
「…ん?朝ご飯ですか?」
『朝だからってボケないで貰える?』
前言撤回。意地悪に少し低めの声で言われてしまう。昔思ったとおり…何年経っても私と彼の関係性が変わったりすることはない。きっとこれからも、ひたすらいじられ続けるんだろうな、とぼんやり思う。
「ボケてません!」
『そんなにムキにならなくて良いじゃん』
誰のせいだ誰の。そうは思っても口には出さない。話したら最後、彼の思うツボだ。
「むぅ…しかも意味わかんないのが意味わかりません。朝カレー知らないんですか?」
『知ってるけど…何かがっつりじゃない?』
「むーん…」
出だしでコケたのかな?それにしても初っぱなから気に入ってもらえないなんて…早起きして頑張っただけに正直ショックだ。
それを知らない彼は電話の向こうで笑いだした。ついムキになってしまう。
「もう!そんなに言うなら食べなくていいです」
『怒るなって。有り難くいただきます』
「そりゃどうも」
『お礼はまた家でね』
「はあ…」
よくわからないけど、とりあえず今日は直帰なんだな、と思う。電話を切ってオフィスに入ろうとすると、また電話が掛かってきた。ディスプレイに表示された名前にドキッとしてしまう。
「もしもし…」
『おはようございますー、谷原です』
「おはようございます」
『ごめん、火曜が都合悪くなってさ…急だけど今日とか無理?』
「今日…ですか…?」
この先待ち構えてることなんて何も知らずに…。