-201-
実はこっそり彼女の家の鍵を持って出た。仕事帰りに実費でスペアを作り、何事もなかったかのようにして彼女の家へ向かった。
『俺と付き合って欲しい…今度はちゃんと、結婚を前提として』
これをちゃんと言えるかが今後に関わってくる。結局まだそれらしいことを言えてないから、ここが正念場だ。
軽く深呼吸をし、鍵を開けた。そう、あくまでも自然に…。
…なんか空き巣みたいだな…。つい苦笑してしまう。
「ただいま」
そう言って彼女の家に上がり、部屋へと向かった。ドアを開けると横になったままの彼女がびっくりしたような顔をしていた。
「な、んで…?鍵かけたはず…」
「あ、ごめん。これ」
そう言ってスペアを見せた。彼女はさらにびっくりした顔をしている。
「ちょ、何勝手に人の鍵持ち出してんですか!」
「これ薫のじゃないよ、俺の」
あからさまに意味がわからないという顔をした彼女のもとへ行き、ベッドに腰掛けた。
「スペア作ったの」
「…は?何で…」
「何でって…」
彼女の頬にそっと触れる。ずっと布団の中にいて暖まっているらしい、俺の寒さで冷えきった手をすぐに温かくしてくれるようなぬくもりだった。
「俺たち恋人同士だからだよ」
やっぱりというか、簡単に『そうですね』とはいかなかった。はぁ?と言うような顔をした彼女は、可愛いというより…なんか面白い。そんなこと言ったら怒られるだろうから言わないけど。
「いつ私たちが付き合うことになったんですか?」
「え、あそこまでしといて今さら引き返そうとするの?」
「ぐ…脅しですか」
「別にそうじゃないけどさ」
とかそうじゃなくて。言いたいことはそんなんじゃない。
くしゃっと彼女の髪を撫でた。彼女は昔から頭を撫でられるのに弱い。少し恥ずかしそうにしながら大人しくなる。
「あのさ…俺と付き合って欲しいんだ」
彼女は何も言わず、大きくて澄んだ瞳を俺に向けた。
心拍数が上がる。今からプロポーズをするも同然なんだ。奮い立たせるように自分の膝に置いている片方の手をぐっと握った。
「今度はちゃんと、結婚を前提に付き合って欲しい。俺にはもう…お前しかいないんだ」
彼女は少し辛そうにしながら上体を起こした。そっと彼女の肩を抱く。
すると、彼女が不意にぎゅっと抱きついてきた。もしかしたら今までの中で一番しっかりと抱き締められているかもしれない。
「私は…今まで自分の気持ちに嘘をついてきました」
ふと考えてしまった。このくだりだと…もう嘘はつけません、谷原さんの所に…いやいや、さすがにないだろ。
今まで自分の気持ちに嘘をついてきました、だろ?その次に来るのは…新一さんと良い雰囲気出してましたけど、もうそれには耐えられ…ちょっと待て!
「ちょっと」
彼女に腕をぱしっと叩かれた。
「聞いてます?」
「ごめんごめん」
「もぉー…いいです」
思わず笑ってしまう。あの頃と一緒だ…だからきっと、俺たちはうまくいくはずだ。
「そんなに怒んなくても良いじゃん」
「もう二度と言いません」
「何でよ」
「…恥ずかしいから」
顔を綻ばせて彼女の頭をそっと撫でた。俺の小動物は少し顔を赤らめてもう一度黙った。
「それは…自惚れていいの?」
可愛げに彼女が小さく頷いた。