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籠の中の鳥とは私のことを言うのかもしれない。
彼は今朝、結局私の家からそのまま出勤し、仕事のない私はひたすらベッドで横になっていた。
昨日目が覚めてからずっとベッドにいる。今日ようやく動いたものの、あまりに腰が痛くて結局ベッドへUターンしたのだ。
「せっかくの休暇が無駄になるじゃん…」
手をぱたぱたと動かし、枕元に置いておいた携帯を手に取る。そこにあったのは昨日の夜と今朝あった谷原さんからの着信。全部で5通ある。
メール画面を開くと、そこにある奇跡に思わず眉をひそめる。
彼からと谷原さんから。どちらも9時ちょうどに受信していた。
それぞれのメールを読むと、似てるようで似てない文章に目が点になる。
『大丈夫?起きれる?
今日の夜家行くから、ゆっくりしとけ!』
『おはよう。内村さんの体調戻った?
今日こそ家で二人の時間を過ごしたいんだけど…お邪魔していい?』
文脈的に優先しなきゃいけないのは間違いなく彼。人に断りなく家に来ること決定してるし…。
谷原さんは今日の展開終了時間が19時だから…たぶん家に帰り着くのは23時を回ってしまうだろう。それなら次の日も仕事がある谷原さんのために、会うのは火曜日の夜が良い。
メールをぽちぽちと打っていると、ちょうど谷原さんから着信があった。
「もしもし?」
『あ、谷原ですー』
ちらっと時計を見ると、もう2時過ぎだ。ぼちぼち休憩に入る頃なんだろう。
『大丈夫?電話も出ないしメールも返ってこないから心配で』
「す、みません!今目が覚めて…」
『昨日何してたの?』
言葉に詰まった。
何をしてた?彼と一緒にいた。それだけ。
…それだけ?なら谷原さんに説明出来るはずなのに。
「…熱、出しちゃって…寝込んでたんです」
『大丈夫?そう言われてみたら声ちょっと違うね。今日やっぱり家行くよ』
「だっ、大丈夫です!熱下がりましたし!」
『でも…』
「県外から戻って来るの時間かかるでしょうし、明日だって仕事あるでしょう?」
『迷惑なら行かない。でも俺は逢いたい…俺のわがままだから、俺の睡眠時間なんてどうでも良いよ』
会って話さなきゃ…もう谷原さんの傍にいれないことを。これ以上谷原さんの想いを踏み躙ることなんて出来ない。
「…火曜の夜に…お会い出来ませんか?」
『火曜?今のところ大丈夫だけど…』
「じゃあ仕事が終わったら…」
『俺が迎えに行くから』
谷原さんの優しい声に胸が締め付けられる。
こんな素敵な人は他にいない。才色兼備、若くて、仕事に真摯で、ユーモア溢れてて、料理も上手くて、絵も上手で、どんな人に対しても優しい。これぞ世間の女性の好きなタイプにドストライクの人で、正直彼の方がいろんな点で劣っているだろう。
それでも、私は彼が好き。
もう隠せない。もう逃げれない。私には最初から彼しかいなかったんだ。
「その時に…谷原さんに、お伝えしたいことがあります」
もう私は、自分の気持ちに目を背けたりしない。