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思えば、彼女とこんな時間を過ごせるきっかけを作ってくれたのは池田ちゃんだ。感謝してもしきれないだろう。
あの時は池田ちゃんを恨めしく思ったが、きっとあのメールがなければ俺は彼女と距離を縮めることは出来なかったはずだ。
「内村さんもう体調大丈夫なんですか?」
朝礼が終わったあとに池田ちゃんが話し掛けてきた。
「おかげさまで。もうすっかり元気になったよ」
「良かったです」
そんな話をしながら指導員室に戻る。1時限を控えている俺たちは、教習の準備に取り掛かった。
「でも…びっくりしたんですよ」
「ん?」
「夜中に内村さんから電話が掛かってきたと思ったら、電話に出たの香西さんだったんですもん」
ゆるみかけたネクタイを整えながら黙って耳を傾ける。
「すごく切羽詰まってたから…何があったのか心配でしたけど、熱が出ただけで良かったです」
「そんなに?」
「あまりに慌ててて、結局噂の谷原さんが説明してくれたんですよ。紳士的だったなー…うちの旦那とは大違い」
池田ちゃんが少し笑ったあと、くいっと制服の袖をひっぱってきた。
「どうしてまさかの3人勢揃いだったんですか?」
「あー…」
ちらっと時計を見ると、もうす教習時間が迫っている。館内には『まもなく教習が始まります。教習を受ける方は準備をしてください。』とアナウンスも流れていた。
「長くなるからまた後で」
「絶対ですよ?」
そう言って結局飲みに連れて行かれた。帰りはタクシーかな、なんて思いつつビールを口にする。
「へー…ドロドロじゃないですか」
「そう?」
「なんか…ドラマみたいな三角関係ですよ」
「気のせいじゃない?俺一般人だし」
池田ちゃんはグラスを机に置いて身を乗り出してきた。
「で?香西さんとはヨリ戻せそうなんですか?」
「まあ…ね」
池田ちゃんが物凄く嬉しそうな顔をした。そんな反応してもらえるなんて、こっちも嬉しい以外表現しようがない。
「お礼、楽しみにしてます」
「は?」
「誰のおかげと思ってるんですか?香西さんと飲みに行って、メールまで送ったの私ですよね?」
腕を組んで「いやー、我ながらいい仕事をした」と言って満足している。俺は思わず苦笑いした。
「いや、そりゃあもう大感謝です」
「ね!お礼、期待してますね」
今度こそいい報告を。それがきっと池田ちゃんへの最高の恩返しになるはずだ。
残る障害はあと二つ、谷原と俺の両親だ。