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きゅう、と恥ずかしながらお腹が鳴る音が聞こえて来た。それもそのはず、朝ご飯も昼ご飯も食べないままこんな時間になってしまったんだから…。





彼が相変わらず壊れ物を扱うかのように、優しく私の頭を撫でた。


「薫とこんな時間が過ごせて良かった」


「ん…?」


「いや、だってさ、ずっと会って話したいって思ってたから」



彼の声がぼんやりと聞こえる。正直な所、今はただただ眠い。確かにお腹は空いてるけど、それよりも眠気が勝っていた。


それに、久しぶりにあれだけ声にならない声を発し続けてしまったから声もひどい。



「ほとんど話してないですけどね」


「疲れた?」


「う…ん…」


彼の温かな匂いと優しい手に包まれて、この上ない居心地の良さを感じた私は無意識のうちに彼の胸へ頬をすり寄せた。


私の頭を撫でていた彼の手がその時ぴたっと止まり、代わりにそっと私の頬に手を添えた。



「…ねぇ、薫は?」


「むぁ…?」


「俺のこと…どう思う?」



沈みかけていた意識が一気に上がってくる。時間が止まったかのように静寂が流れた。



「俺は薫が好きだ。今までも忘れたことなんてない。

別にやりたかっただけとかじゃない。年だから誰でも良かったとかとかでもない。

…本気で、好きなんだ」



わかる。わかってる、そんなこと。前もこの言葉をくれたときも、彼の想いが痛いほど伝わってきた。


なのに、私はそれを拒んだ。




恐かった。彼を想う気持ちが変わってないからこそ、もう一度彼と離れてしまうことがとても恐かった。だから、彼と距離を置くしかないと思っていた。




彼にすがりつくようにそっと抱きついた。


「私は…好きでもない男にやすやすと抱かれるほど軽いと思います?」


「…え?」


「だから…私は軽い女だと思います?」


正直恥ずかしさは隠せない。告白なんて経験ない私にとって、これが自分の気持ちを伝えるのに精一杯だ。


「いや…そうじゃないけどさ、薫意外と非力だから男の腕力には到底適わないじゃん」


「何ですか、意外とって…好きでもない人に襲われたら警察に通報しますよ」


「それが谷原さんでも?」



予想外の言葉にふと考えさせられる。これが谷原さんだったら…どうなってたんだろう。そして私は、谷原さんのことをどう思っているんだろう。





すると彼は少し不機嫌な顔をして私を胸元に引き寄せた。彼の手が脇を通って私の身体を掴む。



「単刀直入に聞くけど、俺と谷原さんはどっちが選んでもらえるの?」


「あっ…!な、に…を…っ!」


「ねえ、俺のことどう思ってんの?教えて?」


「や…んっ!」


「ねえってば」



頭が熱で真っ白になっていく。


「わ…た、し…は…」




答えなんて、もう何年も前から決まっていたはずなのに。不器用な私は結局傷つけ、傷つけられることしか知らなかった。


「新一さん以外の人なんて見えません…今までも、これからも」





彼の動きが一瞬止まったが、次の瞬間には深い口付けをされていた。彼の唇が首筋に、肩に、胸元に落ちてくる。


「あ…っ!」


「薫…」





長い長い一日は、まだ終わりを告げてはくれない。


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