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そして今度は昼の3時を回っていた。休暇以外の休みは実際初めてで、しかも普通の休暇の時もこんなに満たされるものはめったにない。
どうせならもう彼女をベッドから出さないつもりでいる。柔らかい髪をそっと撫でて微笑んでみせた。
「薫とこんな時間が過ごせて良かった」
「ん…?」
「いや、だってさ、ずっと会って話したいって思ってたから」
「ほとんど話してないですけどね」
弱々しい声で彼女が言った。何だかもう疲れて眠いのか、目蓋が若干閉じかかっている。
「疲れた?」
「う…ん…」
よしよしと彼女の頭を撫でる。彼女が目を閉じて体を俺の胸元にすり寄せた。彼女といるのはいつになっても飽きない…むしろ余計に気持ちが高まるばっかり。
「…ねぇ」
彼女は俺の声に反応し、少し目を開けて俺を見上げた。あまりの可愛らしさに額に口付けをする。
「薫は?」
「むぁ…?」
「俺のこと…どう思う?」
彼女の目が徐々に大きく開いていく。俺は彼女の肩にそっと手を置いた。
「俺は薫が好きだ。今までも忘れたことなんてない」
彼女が少し俯いた。口元に手をあてている。
「別にやりたかっただけとかじゃない。年だから誰でも良かったとかとかでもない。
…本気で、好きなんだ」
忘れた事なんてあるはずがない、いつも俺の中に新鮮さをくれた彼女。初めて結婚まで考えた女性。
彼女には俺以外の奴から触れられて欲しくなんか、ない。
彼女はもう一回俺の胸元に額をくっつけた。彼女にそっと抱き締められる。
「私は…好きでもない男にやすやすと抱かれるほど軽いと思います?」
「…え?」
「だから…」
彼女がくすっと笑う。
「私は軽い女だと思います?」
「いや…そうじゃないけどさ、薫意外と非力だから男の腕力には到底適わないじゃん」
「何ですか、意外とって」
彼女の腕が俺から外され、代わりに繊細な指が胸元に添えられた。
「好きでもない人に襲われたら警察に通報しますよ」
「…それが谷原さんでも?」
二人の間に沈黙が流れる。
彼女からの反応がなくて、ついむっとしてしまう。何だ、この流れだと、同じことを谷原が先にしてたらアイツが彼女と結ばれることになってたってことか?
横になったまま彼女を更に引き寄せた。彼女がぴくんっと反応する。
「単刀直入に聞くけど、俺と谷原さんはどっちが選んでもらえるの?」
「あっ…!な、に…を…っ!」
彼女がまた身を捩った。今回もそう簡単に離すつもりはない。
「ねえ、俺のことどう思ってんの?教えて?」
「や…んっ!」
「ねえってば」
「わ…た、し…は…」
甘くなっていく彼女の声と目。俺はこの甘い蜜の中で過ごす権利はあるのだろうか?
彼女が震えるような息を吐いた。
「新一さん以外の人なんて見えません…今までも、これからも」
彼女の潤んだ瞳に吸い込まれていく。強引に彼女の唇を奪い、今までになく貪っていった。
「あ…っ!」
「薫…」
俺も薫以外見えない。今までも、これからも。