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時間が経つのは早いもので、気付けば12時を回っていた。冬らしい温かでやわらかい陽射しが窓から降り注ぐ。
今自分の横には彼女が寄り添っている。彼女の髪をそっと撫で、額に口付けした。サラサラの髪の毛からは相変わらず良い匂いがする。
お互いに言葉はいらなかった。無言のまま数十分を過ごしているが、特に居心地の悪さを感じたりすることはない。あくまでも俺は、だが。
思えば数年前は指導員と教習生という関係だったのに、いつのまにやら恋人となり、別れてしまい、でも今こうやって抱き合っている。他の教員もこうやって紆余曲折して結ばれたのだろうか。
…教員?
「やっべ!」
あわててベッドから飛び起きた。今日は普通に考えて仕事がある。なのに昼までこんな悠長に過ごしてしまった。
彼女もシーツを胸元にあてて身を起こす。
「どうしたんですか?」
「仕事のこと忘れてた!やべー…校長に怒られるわ…」
彼女がくすっと笑って俺の腕に手を添えた。
「昨日のうちに池田さんに連絡しました。熱が高かったから今日はもう仕事は無理だろうって…元気になっちゃってますけどね」
「焦ったー…」
再びぽすん、とベッドに横たわった。危うく無断欠勤になるとこだった…。
左手を目元にあてて軽く息を吐くと、隣から彼女の笑い声が聞こえてきた。
そっと彼女の手を取り、腕を引いて俺の上に横たえさせた。
「二人の時間を取るために電話してくれたの?」
「違いますよ」
あっさりそう告げて彼女が身を起こした。
「なんだ、残念」
「ていうか、もともとそうするように言ったのは谷原さんですよ?」
「は?」
意味がわからない。
俺を運んだり、看病したり、欠勤の電話を指示したり、奴は何を考えているのだろう。
俺が思ってる以上に谷原は良い奴かもしれない。いや、何か企んでるのかも…。
「そりゃ谷原さんに感謝しなきゃだな」
「ですよ。メールでもしときましょうか」
ひらひらと腕を振って携帯を取ろうとしていた彼女がぴたっと動きを止めた。
「どうしたの?」
「どうしよう…谷原さんにモーニングコールし忘れた…」
ぶっちゃけどうでもいい、俺にとっちゃそんな事。
ゆっくりと起き上がって、やたら挙動不振になっている彼女を抱き締めた。
「もう昼だし大丈夫じゃない?」
「そうですけど…謝らないと」
「良いよそんなの」
そう言って再び彼女を仰向けに寝かせ、両手を絡めて握った。
「今は俺だけを見て…」
どちらともなく顔が近づき、そして唇が触れた。