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一旦彼と距離が開いたみたいで一安心するのも束の間、彼が後ろから抱き締めてきた。何とか解放されようと頑張ってみても、彼の力には到底適わない。
「は、な…して…!」
「何で?そんなに俺が嫌い?」
「そうじゃないですけど…!」
顔がどんどん熱くなってくる。
彼はふっと笑ったあと、強引に私の身体を上向きにさせ、顔の横くらいで両手首を押さえた。
ふと顔を上げると、自分の目の先には端正な顔立ちをした彼が私をじっと見つめ、その姿に目を奪われてしまう。
今自分の上に覆い被さっている人は、昔恋い焦がれていた人。私に愛することを教えてくれた人。そして、今までずっと忘れられなかった人…。
「…どうした?」
彼が囁くように尋ねた。その声に心地良さと安心感を覚える。
「ううん…新一さんだなって思って…」
その瞬間、彼に口付けされた。どこか乱暴で、でも優しさも感じるキス。
…このぬくもりはいつ以来だろう?気持ちが高揚してくるのがわかる。
彼の唇が離れたと思いきや、今度は私の首筋へとその場所を移した。思わず声が出てしまう。
「やっ…」
「谷原さんちの犬に舐められた時と同じ反応するんだ」
「ば…っか…!あれは…!」
いじわるだ。いじわるだ。
でもそんな彼がずっと好きだった…。
ようやく手が解放されたかと思うと、今度は彼の手が身体のラインをなぞりはじめた。つい息が漏れてしまう。
「薫…愛してるよ…」
彼が耳元で愛の言葉を囁いてくれている。5年前は当たり前のこの光景が、今では夢でしか見ない。
でも、今は目の前にある。
彼の手がある一点を捕らえ、彼の手からゆっくりと刺激が与えられる。
「俺には薫しかいない…今までも、これからも…」
「しん…い…」
息が詰まりそう。目も潤んできた気がする。
彼の名前をこうやって呼べる日が戻ってくるなんて、思ってもみなかった。
彼は甘い声で囁く。谷原さんとはまた違う、大人の色香を帯びた声で。
「薫…愛してるよ…」
私は…。




