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彼女と少し距離を取ったとはいえ、この手から放すことなんて出来るはずもない。


彼女は一生懸命身を捩って抜け出そうとしているが、ただでさえ非力なのに男の力に勝てるはずがない。



「は、な…して…!」


「何で?そんなに俺が嫌い?」


「そうじゃないですけど…!」




ちゃんと否定してくれるのが嬉しい。


実際彼女は本気で嫌がってるわけではないと思う。ドM加減が相変わらず変わってなさそうだからというのもあるが、基本彼女がリアルに嫌だと思ってるなら手段は選ばないはずだ。例えば鍋で頭殴るとか、警察に通報するとか。


それすらもしないってことは、やりすぎなければ問題ないってことだ。昔俺が彼女に迫ったときも、ほとんどが「やだ」とかから始まった。



そんなことを思い出して俺は変態か、と心の中で突っ込む。




それはいいや、とにかく彼女の身体を再び引き寄せ、彼女を仰向けにして両手首を掴んだ。


…いかにも無理矢理襲ってます的な感じがあって自分でもちょっと嫌にはなるが…。



しかし彼女は嫌な顔をしたり目をそらしたりするどころか、切なげな目で真っすぐと俺を見ている。少し頬が上気しているみたいだ。


「…どうした?」


「ううん…」


彼女が首を振って目線だけをそらした。


「新一さんだなって思って…」





彼女を抱きたいという衝動。それに強く駆られて彼女の唇を強引に奪った。



いい歳したおっさんなのに、彼女をめちゃくちゃにしてしまいたいという強い欲望のままに彼女の首筋に唇を移す。




「やっ…」


「谷原さんちの犬に舐められた時と同じ反応するんだ」


「ば…っか…!あれは…!」



そう言いながら彼女から甘い息が漏れる。解放した彼女の手が俺の髪をぐしゃぐしゃに掻き撫でた。



「薫…」


気持ちが高揚し、自分の息もが上がってくるのがわかる。



好きだ。好きだ。好きだ。

それ以外に何と伝えたら良い?



「…愛してるよ…」


ありきたりな言葉しか言えない。でもこれが彼女への俺の等身大の想い。


「俺には薫しかいない…今までも、これからも…」




彼女の胸元に顔を埋めているので彼女の表情は確認出来ないが、彼女の口から甘い声が絶え間なく聞こえ出した。



「しん…い…」


切なげに彼女が俺の名前を呼んだ。ただそれだけなのに、気持ちは高ぶっていく一方だ。



「薫…愛してるよ…」




たとえ彼女が俺を想っていなかったとしても。


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