-19-
今日は久しぶりに香西さんの指導に当たる。
自然と頬が緩んでしまう…我慢我慢。
何から話そうか…テストの手応えか、試験中なのに何で教習所に来てたのか、風邪を引いてるのか、昨日の話か…
やっぱり昨日の話だ。
話は昨日の夜に遡る。
昨日、たまたま7時台の下山方面のスクールバスの運転手になった。あくまでも「たまたま」だ。
勿論彼女は『試験が終わるまで来ない』と言ってたから期待はしてなかった。
眼鏡をかけ、ジャンバーを着て、手袋をはめる。
…いかにも「バスのおじちゃん」だ。
冷えないように閉めていたバスの扉を開けて、生徒の到着地を尋ねる。
『お疲れさまです、どちらまで…』
一瞬俺の目を疑った。
香西さんが座っている。
『お、ぉ…久しぶり』
彼女も携帯を持ったまま絶句している。
『…どこまで行くの?』
『下山…パレスまで…』
お互い何だかぎこちなかった。
こんな事を言うのも何だが、あの時彼女の他に二人生徒が乗っていたけど、あの二人がいなければ教習車以外での初めての二人っきりだったのに…。
もしそうだったら今までブランクがあった分、たくさんたくさん話をしていたのに。
いや、良いんだ。昨日はこの目でちゃんと彼女が帰るのを見届けたし、今日だって彼女の担当だ。
それより気になるのは、昨日の帰りのバスで彼女が咳込んでいたことだ。
最近寒いし、大丈夫だろうか…。
とにかく今日、今から彼女の元へ行く。
どういう展開になるか、すごく楽しみだ。