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あれから俺の携帯はうんともすんとも言わない。この空いた時間が非常に辛く、あんなメールを送られなければ…と思う。
仕事も終わり、帰宅準備に取り掛かっているときも反応はない。ため息を吐いて携帯をポケットに入れようとした瞬間、手の中で携帯が震えだした。
すごい勢いで画面を見ると、美幸から久しぶりに電話がかかっていた。
「なに」
物凄くがっかりしつつ仕方なく電話に出ると、それが伝わったのか不満そうな声が返って来た。
『何よ、私が電話しちゃいけなかったの?』
「そんな訳じゃないけどさ」
美幸がいつもの明るい口調でまぁいいか、と呟くと、いよいよ本題に入ってきた。
『今度のさ、俊哉の結婚式行く?』
歳のせいか誰のことかわからなかったが、数秒経ったのち学生時代のサークルの後輩だったことを思い出した。
「あいつか!結婚すんの?」
『招待状送ったって言ってたわよ』
あったっけー…と思いながら記憶をたどるが見当が付かない。たぶんダイレクトメールの山の中だろう。
「そうだなー…せっかくだし行くよ」
『で、新ちゃんは何で結婚式呼んでくれてないの?』
「…は?」
『ほら、私がたまたま看護してた彼女さん、結婚したんでしょ?』
なにやら話を聞いていくと、俺は巷では彼女と結婚して三児の父になっているらしい。
『あんなに私が色々面倒見てあげたのに、式に呼ばないなんて薄情じゃない?』
「いや、あのさ…」
『新ちゃん見損なったー』
「聞いてる?」
その言葉に美幸が笑い出した。
『ごめんごめん、冗談だから怒んないで。で、なに?』
「いや…さ、俺まだ結婚してないし、彼女とは5年くらい前に別れちゃって」
『うそ、ごめん…』
声を失っていく美幸に対していや、と軽く言った。
「まあでも今頑張ったらヨリ戻せそうな感じ」
『あ、そうなの?元カノさんとうまくいくといいね』
美幸は色んな事を察したのだろう、深くは聞いて来なかった。その優しさがまた、何となく切なかった。
他愛ない話を終わらせたあと待ち受け画面を眺めたが、そこにはまだ彼女からの着信はなかった。