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今日こそは谷原さんと会うことになっている…と思う。週に5回も会うなんて、その辺のカップルと同じくらいかもしれない。
一応今日どうするのかを尋ねるために、昼休みに電話を掛けてみた。
長いコール音の後、いつもの明るい声が耳に届く。
『トゥース!』
「お疲れさまです」
なぜだか自然と笑みがこぼれてくる。谷原さんとの距離があの日以来一気に縮まり、会わない日でもこうやって毎日電話をしている。
『お疲れさまです。どうしたの?』
「あ、今大丈夫ですか?」
『もちろんもちろん。今岩本っちゃんと昼飯食べてるから』
そうですか、と言って何故か黙ってしまった。普通に考えてメールをすれば良かっただけなのに、谷原さんの声を聞きたいと思ってしまう自分がいる。
『大丈夫?どうしたの?』
その声にはっとして慌てて答えた。
「あ、いや…今日はどうするのかなって…」
ああ、と谷原さんが言った。電話の向こうで少し笑っているらしい。
『今日お邪魔して良いの?』
「え?」
『いや、ご自宅に』
どきっとする。確かに意識がなかったとはいえ流れで谷原さんの家に泊まったときも、彼がこの前家に来たときも、特別何もなかった。
でも今この時期、この状況だと男女二人が密室にいれば、いわゆる男女関係というものが出来上がってしまいそうな気がする。
もちろん谷原さんが私を異性として好きだ、と言ったんだから、私がOKを出せばそういう事にはなる。
いや、でも…
『香西さん?』
「は、いっ!」
考えてることがばれてしまったかのような慌てる。谷原さんはそれを知らずに少し高めのトーンで尋ねてきた。
『どうしたの?ホントに大丈夫?』
「大丈夫です。今日家に来るんですよね?準備しておきます」
『ありがとう。今日迎えに行くから』
「待ってますね」
電話を切ってふと顔を上げると、何度となく私を迎えに来てくれている谷原さんを見たことがある同僚に囲まれていた。
「またあの人来るの!?」
「彼氏だったよね?」
「結婚するの!?」
谷原さんは多分、私が知らないだけですごくもててるんだろうなと思う。そしてそれをもやもやと考える自分。
もしかして私…。