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書類をデスクにトントン、としてきれいにまとめながらため息を吐く。
結局私は何がしたいんだろう。
彼に最後に会って約10日ほど経とうとしている。特に何かするわけでもなく、されるわけでもなく。
何か変化があったかと言われれば、きっとそれは谷原さんとの関係がはっきりしつつあることだろう。
これ以上彼を苦しめたくない。私ももう、苦しみたくない。
だからもう、彼と連絡を取り合うのはもうやめようと思った。
だというのに、心のどこかに彼を取られたくないという変な独占欲がある。
悪い言い方をすれば…というより、明らかに二股状態だ。
もう一度ため息を吐いた。
谷原さんは寛大なのか適当なのか、人のわがままに付き合ってくれる性格だ。嫌な顔一つせず「わかりました」という姿に驚きさえしたこともあった。
そんな谷原さんにこれ以上の失礼な行為は許されない。たとえ本人が気にしないよと言ってくれたとしても、だ。
義務感からではなく純粋に、谷原さんが好きになったような気さえした。その性格が、きっちりしてないと気が済まない私をすべて受けとめてくれそうだから。こんなに想ってくれる人もいないだろう。
…彼を例外として。
「結局どうすりゃ良いのー…」
そう言ってデスクにぺたりと顔をつけた。デスクの冷たさが何となく心地よくて、ゆっくりと目を閉じた。
その時、同僚の松嶋くんが私の背中をぽん、と叩いた。寝呆けたような顔で振り返る。
「なに…?」
「香西ちゃんにお客さんだよ。女性の方で、池田さんっておっしゃる方なんだけど…」
「池田さん?」
女性の池田さんはあいにく何人も知り合いなため、どの池田さんなのか正直わからない。
高校からの友達か、大学からの友達か…思いつく人を頭に浮かべながら席を外した。
受け付けで待っているということだったので急ぎ足で向かうと、そこには私と同じ背丈の女の人が立っていた。セミロングで真っ直ぐな黒髪のその人は、私がそっちに行っているのに気付いたらしく、笑顔で私の方を振り返った。
「香西さんですよね?お久しぶりです」
お久しぶりというか、私の顔を覚えているのかは正直疑問ではある。でもそこに、私には面識がある人が立っていることは確かだ。
「池田さん…」
古野ドライビング教員の池田さんだった。