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結局彼女と連絡取らないまま一週間を過ごした。俺の頭の中には『諦め』の二文字がうっすらと浮かんで来る。
5年近く想い続けて届かないのなら、諦めたほうが潔いだろう。
でも、5年も想い続けたならそう簡単に諦めるのはもったいない、という気もする。
最近浮いたり沈んだりが激しくて、気疲れすることが多い。何事も気の持ちようだとは思うが…良い歳だし、いい加減新しい出会いを求めたって良いか、とも思う。
悲惨といえば悲惨な俺を気遣って、池田ちゃんが飲みに誘ってくれた。一つしか違わないとはいえ、後輩にこんなに気遣われてはなんだか面子が立たない気がするが…そこは仕方ない。
「何か悪いね、いっつも」
「いーえ、私は内村さんが香西さんと幸せになるまで頑張りますから」
そう言って池田ちゃんはカクテルを一口飲んだ。先輩想いな後輩につい笑みがこぼれてしまう。
「で、最近は全然連絡取ってないんですか?」
「まあね…何か怖くてさ」
「谷原さんに取られるのとどっちが怖いですか?」
なんとなく言葉が出て来ない。谷原に取られるのは確かに嫌だ。かといって彼女に直接拒絶されても…と思う。
「…どっちもかな」
「男でしょー、当たって砕けろで良いじゃないですか!」
それが出来るもんなら普通に考えてこんなに苦労しないだろ、と心の中でつっこむ。まあ池田ちゃんなりに俺を一生懸命励まそうとしてくれてるのはすごく伝わってくるから何も言わないが。
「そういえば…香西さんって勤め先プジョーって言ってましたよね」
俺は特に考えることなくグラスをカラン、と回して答えた。
「うん」
「共通の車っていう話題は何かしたんですか?」
「…いや…」
「ならそれをネタに会話すれば良いじゃないですか」
確かにその手はある。でも今の状況でそれをどう利用して良いのかわからない。
「…う、ん。機会があればね」
「頑張れば機会なんていくらでも作れますよ」
やたらとにこにこして池田ちゃんが言った。どこからそんな根拠が出て来るんだ、と聞きたくなったが、どうせ言ったところで『女のカン』と返されるだろう。
「そーですね」
見向きもせずに適当に答えた俺の背中を、池田ちゃんは叱り付けるかのように思いっきり叩いた。




