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彼女を忘れようとして結局忘れられなかった5年間。頑張っても頑張っても忘れられなかったのに、今断ち切ろうとするのは無理がある。
再び出会って、惹かれてしまったから…。
とはいっても結局どうしたら良いかわからない。多分今行動に移したところで余計距離が開きそうだし、でも待ち構えてるだけじゃ谷原に横から取られるかもしれないし。
仕事の休憩中、デスクにうつ伏せになってため息を吐いた。
「…あー…やる気ねー…」
この時間が空き時間になっている池田ちゃんが、コーヒーを飲みながら椅子に座った。
「どうしたんですかー」
数秒経って体を起こし、池田ちゃんの方を見ることもなくぼんやりとした感じで答えた。
「何かねー…うまくいかないんだよね」
「女心は複雑ですよ」
俺が省略した部分を悟った池田ちゃんはそう言って再びコーヒーに口を付けた。
「まあでもまだ好意を持ってくれてる可能性はあるじゃないですか」
「…家に呼んでくれたこと?」
「一人暮らししてるならなおさら…男と女が自宅で二人っきりなんて、言い方悪いですけど何があってもおかしくないじゃないですか。好意持ってない人なんて部屋に招待したりしないですよ」
「そっか…でも俺さ…」
『言い訳なんて聞きたくない!』
彼女の声がまだ耳に残っている。
滅多に見ることなんてなかった彼女の泣いている姿。俺はただ、為す術もなくその場から立ち去ってしまった。
「…内村さん、香西さんに謝りました?」
「まあ…でも」
「謝った後すぐ余計な言葉を口にしたとか」
池田ちゃんが言ったのが図星だっただけに、ぐっと口をつぐんでしまう。
よくよく考えれば『それでも俺はまだお前が好きなんだ』的な発言をしたところで重いだけだ。しかも謝った直後に。
恋の駆け引きなんて今までやったことがない。そんな俺にどうしろというのか。
再びうつ伏せになってため息を吐いた。
「もー俺はダメなのかねぇー…」
池田ちゃんがマグカップを俺の頭の上にどす、と置いた。鈍い痛みに頭をさすりながら体を起こす。
「そこで諦めたら、ホントにダメです。無条件に谷原さんに渡すんですか?」
「そうじゃないけど…」
「なら諦めないでくださいね」
にっこりと笑う池田ちゃんに、ただはい、としか言えなかった。
まだ焦る必要はないはず。