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部屋のドアが開いた瞬間、ふんわりとした優しい匂いに包まれた。




女性らしさの出ている部屋。オレンジと白を基調としていて、すごくきれいに整頓されている。



「はー…綺麗だね」


「ありがとうございます。でも狭いでしょう?」


そう彼女は言うが、多分9畳くらいはあるだろう。ないのだとしても、片付け方のおかげで広々として見える。



「おじゃまします」


いまさらそう言って、彼女が準備してくれた座椅子に座った。彼女は台所へと向かう。


「ミルクティーで良いですか?」


「あ、ありがとう」


いいえ、と台所から声がした。もう秋になって肌寒いからと、温かいものを準備してくれているのだろう。



そして、会話が全くなかったまま過ぎた数分後、目の前には予想通りほんのり暖まるくらいの温度のミルクティーが置かれた。


「美味しいですよ」


「ん…美味い」


向かい合って座り、微笑み合っている。その光景が何とも言えず幸せで、心まで温かくなっていく。




そしてその数分後、二人の間に鍋が置かれた。最近は朝夜20℃を切ることが多く、正直布団から出にくくなりつつある。そんな時期の鍋は大好きだ。


「鍋だとたくさん野菜も取れるし良いでしょう?」


「そうだね。いただきます」


決して手抜きではないと分かるのは、ふわふわに作られた鶏団子や、栄養バランスを考えて数種類の野菜が入っているから。


「美味っ!久しぶりに良いもの食った気がする」


「大袈裟ですよ」


彼女が苦笑している。俺は別にお世辞を言ったつもりは全くない。

ひたすら鍋をつつきながら言った。


「お世辞じゃないし。何、そんなに俺の言葉は信憑性ないわけ?」


「そうじゃないですけど…」


「じゃあ素直に喜んどきな」


「そうします」



ちらっと彼女を見ると、箸をくわえたままじっと俺を見ていた。何故だかどきっとするものがあり、次に来ると予想される言動に期待してしまう。


「…なに…?」


「ううん、何でもないです」


そう言うと伏し目がちに箸を手元に置いた。


「全然変わってないなって」



少し彼女が悲しそうに微笑んだ。

今すぐに抱き締めたい。でもそれは彼女にとって迷惑になるかもしれないと理性が止める。



「薫だって…全然変わってない」


「そうですかね…」



何故だか彼女がぽつりと言ったことが胸に重くのしかかる。


やっぱり彼女の気持ちはもう谷原の方に向かったのだろうか…。




「あのさ、言いたかったことがあるんだけど」


彼女はぱっと顔を上げ、小動物のような目を丸くして俺を見た。心拍数が上がるのがわかる。



謝るんだ、5年前のことを。



「ごめん、昔いきなり連絡取らなくなったこと…結婚も考えてたのに周りから反対されまくって不安だったんだ。でも俺は…」






その瞬間、彼女が強く机を叩き、涙を浮かべた目で俺を睨んだ。



「言い訳なんて聞きたくない!」




彼女に付けた傷は想像以上に深い。


俺がこの5年間、彼女を忘れたことがなかったのは揺るぎない事実。



でもそれはまた、とてもとても都合の良い事実…。





「…また出直してくるよ。何思われたって仕方ないと思ってる…でも俺は、まだお前が好きなんだ」




そう言って俺は部屋を立ち去った。


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