-161-
何としてでも機会を作って彼女と話すしかない。あの時俺が悪かったことを謝らなくては、と思う。
何があっても彼女の傍にいるという約束を破ったこと、回りから祝福されることも幸せになることも絶対にないと勝手に思ったこと、そして5年前のあの日、連絡を取らなくなったこと…。
仕事から帰って来て、真っ先に彼女に電話を掛けた。だが淡い期待は脆くも崩れ、彼女が出ることはなかった。
それとは逆に、登録外の電話番号からの着信があった。不審に思いながら電話を取る。
「もしもし?」
『内村新一さんですか?』
聞き覚えのある声。少し高めのトーンで誰が喋っているのか名前を聞かずともわかる。
『谷原賢二です』
「どうして俺に電話を?」
『挨拶はナシで本題に入っても?』
「問題ありません。何故あなたが俺に電話を掛けたのか気になりすぎて」
では、と谷原が言った。今から直接対決になることは誰が見てもわかる。
『香西がいつもお世話になっているようで』
「いえ、こちらこそ」
『単刀直入にお聞きしますが、内村さんは香西のご友人なんですか?』
「じゃあ何だと思うんです?」
『もともとお付き合いしてたんじゃないかと』
ふっと余裕の笑いが出てしまう。谷原のカンに触ろうが何だろうが、この際関係ない。
「そうですが…それが何か?」
『そして今、未練がましく連絡を取っていると言うことですか?』
この前聞いた彼女とのやりとりの時とは違う、少し厳しめの口調。それでも俺は絶対に屈したりしない。
「未練がましくっていうか…ただアイツに話したいことがあるんです」
『ヨリを戻すための何かを?』
「いけませんか?」
いえ、と言って谷原が黙った。俺は勝利を確信したが、それはあっけなく砕け散った。
『どうしようと内村さんの勝手です。ですが、内村さんが彼女を傷つけたという事実は忘れないでいただきたい』
まるでヘビに睨まれたカエルかのように、俺が何も喋れなくなった。
『彼女は俺が貰います。俺は彼女を傷つけたりしない』
黙って奴の宣戦布告を聞くしかない。谷原に対して今まで感じたことがないくらいの敵対心を覚える。
『もっとも俺は強引に奪おうとは思いませんけどね』
それでは、と言って谷原は電話を切った。奴の電話の意図がわからないが、とりあえず宣戦布告された以上は対等に戦っていこうではないか。
最後に笑うのは俺だ。