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やる気が全く出ない。ぼけーっとしながら煙草をふかた。
今日の仕事もあと三時間で終わりなのに、相変わらず彼女からの連絡はない。
重いため息を吐くと、今日の教習を終えた池田ちゃんがふらりとやって来た。
「どうしたんですか?ため息なんてついちゃって」
黙っていても埒が開かないので、煙草の火を消しながらもう一度ため息を吐いた。
「いや、何かさ…メールしたら『やっぱり会えません』って断られたよ。何回メールしても『ごめんなさい』しか返って来なかったし」
「電話は?」
「出ない。だから一応留守電だけ残したけど」
池田ちゃんはなんで?という疑問を全面に出して首を傾げた。
「昨日の段階では香西さんOK出したんですよね?」
「まあ」
「ドタキャンするような人には思えないし…」
お前は彼女のことを知ってんのかよ、とツッコみたくなるが、確かにそうだ。彼女は身勝手な行動をする人ではない。
「だからこそ理由がありそうじゃん」
「例えば?」
「谷原と付き合うことになった、とか」
池田ちゃんは何も言わず、面食らったように顎を引いた。
「で、俺と会うの気が引けた、とかね」
「…本当に?」
切なそうな目で池田ちゃんが見つめて来た。言葉が詰まって話すことが出来ない。
…俺だって、こんなこと思いたくないのに。
「内村さん、それ直接香西さんに聞いたんですか?」
「いや、そうじゃないけど…」
「なら諦めたり落ち込んだりは早すぎでしょう!」
そう言ったと同時に俺の背中を叩いた。元々体育会系の池田ちゃんに思いっきり叩かれるとマジで痛い。
「っ、いったい!」
「痛くなるように叩いたからです」
「あ、そう…」
何となく後輩に反論出来ない。つくづく弱いなぁと思うが、確かに俺が女心をわかってないというか、根本的にわかってないというか、とにかくそのことは痛いほどにわかった。
「じゃあさ、どうなの?池田ちゃんがアイツと同じ状況だったらどうして欲しいの?」
「わー、何か言い方がやらしー」
「どこがだよ!いいから答えて」
「んー…やっぱ電話とかじゃなくて直接会って、連絡取れなくなったのを謝ってもらって、それからぎゅってして欲しいですかね。抱き締めるコミュニケーションって一時CMにあったみたいに」
やっぱり女性の視点は違う。池田ちゃんにアドバイス貰って良かったと思う。
「てか池田ちゃんもそんな乙女みたいなこと言うんだ」
そのあとまた本気で殴られたのは言うまでもない。