-157-
電話が切れた後、一応デートのことをメールしてみた。が、今日の昼になっても返信がない。約束は今日だというのに…。
スクールバスを走らせ終え、指導員室に戻って来た。何度となく携帯を見てはがっかりしての繰り返しに、教習に向かおうとしている池田ちゃんが不思議そうに見つめた。
「どうしたんですか?また合コンの女の子からですか?」
「いや…メール待ち。返事が帰って来なくて…」
「誰からですか?」
何だか答えたくない。適当にまあね、と答えると、カンの鋭い池田ちゃんはその答えに気付いた。
「内村さん…積極的ですね…。もうヨリ戻しの行動に移るとは」
「うるさい」
興味津々に俺を眺める池田ちゃんを払いのけて立ち上がった。
「ホラ、早く教習行って来いよ」
「じゃあ後で詳しく教えてくださいね。行って来ます」
きっと世界中の人が俺と彼女のことを反対したとしても、池田ちゃんだけは祝福してくれるだろうと思う。いや…古野ドライビングには俺のことを応援してくれる人がたくさんいる。
まわりの環境に恵まれてるじゃないか、と思うと、今までの考えについ笑ってしまう。あの時俺に反対したのは親だけだった。ならしつこいくらいに説得すれば良かった。
後悔してももう戻らないのだから、前に進むしかないと思う。
取り留めのないことをあれこれ考えていると、携帯が机の上で震えた。急いで携帯を手に取ると、そこには『香西薫』の文字が表示されていた。
落ち着け自分、と言い聞かせるように息をゆっくり吐き、メールを開く。
そこには『ごめんなさい、やっぱり今日は会えません』と記されていた。
今日を凄く楽しみにして朝から落ち着かなかった俺は、冷や水を浴びせられたような状態になった。
そのあと体調が悪いのか、後日会うことは出来るか、などメールしたが、ただ一言『ごめんなさい』としか返って来なかった。
嫌な予感がよぎる。彼女は谷原に奪われたのではないだろうか。だからもう俺とは会えないと言うんじゃないだろうか。
仕事中だというのにとっさに電話を掛けた。このまま黙って見ていたくない。彼女に出会ったのも、彼女を想ったのも、彼女を愛したのも、俺の方がずっとずっと先だったのに。
彼女は仕事中なのか、それとも別の理由か、電話に出ることはなかった。思いため息を吐いて携帯を握り締める。せめて留守番電話にだけでも…。
「…内村です。しばらく会えなさそうで残念です。でも俺は、今すぐにでも会いたい。だから…連絡ください」
俺の気持ちが届くのを切に願いながら電話を切った。