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「谷原さん…?何で…?」



谷原さんのオフィスはここからはちょっと遠い。飲みに来るにしてはえらく離れた場所を選んだことになる。


谷原さんは少しだけ身を屈めるようにして話し掛けて来た。


「え?香西さんこそどうしたんですか?」


「えっと、私は飲み会に誘われて…」


「そうだったんですか」



谷原さんは合コンだと疑うことなく納得してくれた。これが大人の余裕ってやつなんだろう、と思う。



「谷原さんは?何で岩本さんと…」


「ああ、メールしてたでしょう?一緒に飲むの岩本っちゃんなんです」


「久しぶり」



いつ以来だろう、久しぶりに岩本さんに会った。元モデルとあってその辺の人達より数段かっこいい。


岩本さんとも谷原さんとも学生時代に一緒に働いた仲。久しぶりの再会は嬉しいが、戸惑いの方が大きかったりする。



「はあはあ…」


わかるような、わからないような。

すると谷原さんはそんな事を気に止めもせず、柔らかい笑顔を向けて来た。


「良かったら一緒に飲みません?岩本っちゃんも久しぶりに香西さんと話したいみたいですし」


「いえいえ、お二人でごゆっくりどうぞ」


「来ないんですか?ホントに来ないんですか?男二人じゃムサいじゃないですか。お金の事は気にしなくて良いんですよ?」



いつもこんな感じだ。寂しいんですか?と聞きたくなってしまう尋ね方が昔からおかしかった。子犬のような目で見られたらつい頷いてしまいそうになる。





「薫」


その時後ろから彼の声がした。ぴくんっと反応した後彼の方を振り返ると、辛そうな顔をして立っていた。


「俺もう帰るから」


彼は目を合わせる事なくそう告げた。その彼に真っ先に声を掛けたのは谷原さんだった。


「ご友人ですか?」



谷原さんは気付かなかったかもしれないが、私はそこに一瞬の動揺を見つけた。

友人という関係で片付けられてしまう現実に打ちのめされた私もまた、同じだった。



「…まあ」


彼は少し不機嫌な声を発した。すると谷原さんは嫌味でも何でもなく会釈をした。


「香西がお世話になってます」




一緒に仕事をした時に、店舗で似たような挨拶をした。でも今はわけが違う。ビジネスの挨拶でも何でもなく、どちらかといえば家族がする挨拶だった。


それを見て岩本さんは爆笑している。今はそれどころじゃないのに。


「ちょ…!」


「何でですか?挨拶しなきゃダメでしょう。マズかったですか?」


「え…っと、いや、何でも…」


「谷原ちゃん突拍子ないなー」





ふと気付くと彼は何も言わず帰ろうとしていた。慌てて彼の背中を追いかけ、呼び止めた。



「新一さん」


彼は立ち止まってはくれたが、決して振り向いてはくれなかった。


息が詰まりそうになる。涙が出て来たのか、視界が一気にぼやけて彼の姿がはっきり見えない。


「今日は、お会い出来て…嬉しかったです。また、連絡ください…どうかお幸せに」





彼は少しだけ顔を向けたあと、足早に立ち去った。彼の顔が全然見えない。


泣き崩れそうになるのを必死に堪えて谷原さん達の元へと向かった。


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