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誰だコイツ。
昔似たような事を思った記憶がある。確か初めて旅行に行った時に彼女に電話をかけて来た…あれは元カレだったな。
若い風貌、すらりとした長身、柔らかくエレガントな雰囲気はまさに紳士を思わせる。
俺には足りないものを持っている男にカチンと来る。彼女とどういう関係なんだ。
「谷原さん…?何で…?」
「え?香西さんこそどうしたんですか?」
「えっと、私は飲み会に誘われて…」
「そうだったんですか」
谷原さんと呼ばれた男は合コンだと疑う様子もなく頷いていた。
「谷原さんは?何で岩本さんと…」
「ああ、メールしてたでしょう?一緒に飲むの岩本っちゃんなんです」
「久しぶり」
もう一人の岩本さんという男は、谷原と違って彼女にはタメ口だった。
こっちも長身で、凛とした雰囲気を醸し出している。
…会社の同僚か?だとしたら、こんな男達に囲まれている環境なんて不安で堪らない。まさに数年前感じたような不安が…。
「はあはあ…」
彼女が納得したようなしてないような声をあげた。
「良かったら一緒に飲みません?岩本っちゃんも久しぶりに香西さんと話したいみたいですし」
「いえいえ、お二人でごゆっくりどうぞ」
「来ないんですか?ホントに来ないんですか?男二人じゃムサいじゃないですか。お金の事は気にしなくて良いんですよ?」
俺をそっちのけで楽しそうに進む会話にさらにイライラして来た。悪あがきの第一声を発する。
「薫、俺もう帰るから」
すると反応したのは彼女ではなく、谷原だった。
「ご友人ですか?」
とうの昔に別れてしまった俺にとっては、彼氏から友人ランクに下がっていることを痛感させられた。しかも最も言われたくない相手に告げられてしまうなんて…。
「…っ、まあ」
感情を押さえて話す。奴の顔が余裕の笑みを浮かべているようにしか見えて来ず、悔しさが募る。
「香西がお世話になってます」
「ちょ…!」
谷原が会釈する。彼女が困惑する。岩本が笑っている。
堪えられない目の前の光景。彼女はもう、俺の手に届く存在ではなくなったのだ。
何も言わずに踵を返し、無言で去って行こうとした。
「新一さん」
その時に彼女の切なそうな声が聞こえた。振り向くことも、言葉を返すこともなく、ただ立ち止まった。
「今日はお会い出来て嬉しかったです。また連絡ください。
…どうかお幸せに」
今戻ってはダメだ。きっと泣いてしまう。
彼女がどんな顔をしているのかを見ることもなく、その場を立ち去った。