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聞くところによると、今日は10歳くらい年上の人達が来るらしい。
頭に真っ先に浮かんだのは彼…今何をしているんだろう。
そんなことを考えてはっとした。彼はもう昔の人。いい加減振り切らないと一生独身貴族で終わってしまう。もうあれから5年経ったのだ。
そして、もうすぐ想いを伝えてくるだろう谷原さんに失礼だ。
自惚れんなよ、と言われそうだが、谷原さんには何度も遠回しに告白されたことがある。
谷原さんももう三十路ということもあって、結婚を視野に入れてるらしい。頭が良くて、優しくて、面白くて、料理も出来ると来れば文句の付けようがない旦那さまになることは間違いない。
…とりあえず今はそれは置いておこう。
連れられて入った店には既に男の人が来ていた。挨拶して回らなきゃ、と思いながら精一杯の笑顔を振り撒いた。
「こんばんはー」
一人一人に会釈しながら奥へと向かう。最後の人に挨拶しようとした時だった。
自分の目を疑った。
目の前にいるのは、彼。紛れもなく一時期お付き合いしてた彼だ。
あの頃と変わってない様子にほっとしつつ頭を下げた。
「じゃあまず自己紹介から…原田圭介です。歳は…この前35になったばっかり。恥ずかしいけど…
仕事は証券会社に勤めてます」
「俺は市原誠でっす!歳は秘密。趣味はサーフィンで、仕事はまぁ…派遣を」
全くもって興味ない。二番目の男は下心丸出しでこっちを見てくるから嫌になる。
…谷原さんに迎えに来てもらおうかな、彼氏役で。
そして彼の番がやって来た。ガン見してるのがバレないように、ちらちらと彼の方を見る。
「えっと、内村新一です。34歳で…えー、自動車学校に勤めてます。趣味はドライブ…かな」
変わってない、何も。
それが嬉しくもあり、悲しくもあった。
愛しい。でもそんな気持ちは届くはずもなくて。
吹っ切るかのように軽く息を吐いて、出来る限り元気よく喋った。
「香西薫です。今24歳で、車の会社に勤めてます」
「はいはい!」
名前は覚えてないが、とにかく一番面倒臭そうな男がいきなり手を挙げて来た。
「キミ?プジョーで働いてるの」
「あ、そうです」
「フランスで働いてたんだよね?」
「一年半くらいですけど」
「じゃあさ、」
「まだ自己紹介終わってないから後でな」
勘弁してくれ。その思いが彼に伝わったのか、彼が制止してくれた。こういう気配りが大好きだった。
そして、隣に座っていた千尋が彼の方を控えめに見つめながら口を開けた。
何だかムカムカする。もう彼の彼女でもなんでもないはずなのに。
「あ、じゃあ私が…高島千尋です。今調理師学校でフランス語講師してます」
最後の方は彼を真っすぐ見つめたのを見て余計にイライラして来た。
そこでもう一度冷静になってみた。私はもう嫉妬する資格もない。それに最近大きくなりつつある谷原さんの存在。
割り切るしかないのだ。
満里奈が挨拶を終えたところで、面倒臭そうな男が彼を押しのけて私の前に陣取った。ここは一つ…アレしかない。