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あれは昨晩のことだった。
シャワーを浴びた後ベッドへと向かった。すると彼はもう体を横に向けて眠っていた。
こっちだってもう疲れ切って眠いっていうのに…ついふっと笑ってしまった。
まあ良いか、と思ってバスタオルのまま布団に入った。今から着替えようとするほどの気力も体力も残ってない。
彼の横に寝そべって寝顔を眺めていた。いつも先に寝てしまう私にとってはかなり貴重な姿。
くすっと笑って頬に触れたその瞬間だった。
「か、お…る…」
彼は寝ているというのに苦しそうな、辛そうな顔をした。その瞬間に胸が締め付けられるような感覚がした。
私に助けを求めているの?それとも…。
前者であって欲しいと一心に願いながら彼を庇うかのように抱きしめた。彼は落ち着いてくれたのか、穏やかな顔で寝息を立て始めた。
そして、一瞬の不安。
彼はずっと私の傍にいてくれるのだろうか。これから先も、ずっと。
自分の不安を紛らわすかのように彼の額に口付けをした。
それから先のことは覚えていない。気付けば朝になっていて、彼が頭を撫でていた。
せっかくで何なんだが、何せ部屋を締め切っているから、こう二人でくっついていると朝方とはいえ暑い。
「うー…あっつい…」
そう言いながら体を伸ばすと、彼は少し笑ってはいはい、と言いながら窓を開けに行った。
そして自分の状況に気付く。体に巻いてたはずのバスタオルは、寝相が悪いせいか床に落ちていた。つまり…
あわててシーツを被って服を探した。
「どうしたの?」
「待ってください、着替えるから」
「何をいまさら」
彼は笑っているけどそれどころじゃない。
「もう少しだから」
焦れば焦るほどうまく服が着れない。落ち着け、落ち着くんだ私。
大げさながら熱気と二酸化炭素が充満する空間からやっとの思いで脱出した。
「むあー」
その瞬間、後ろから思いっきり抱き締められた。シーツを脱いだ時に目線の先にいるはずの彼の姿はない。
「ひゃ!ちょ、どうしたんですか?」
「何でもない」
何でもないよ、と言って彼は私の肩に額を置いた。
ホントに何もなければ良いんだけど…そういう訳にもいかないみたいだ。