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俺は、夢を見ていたんだ。
彼女と永遠に一緒にいられる夢。子供も作って、毎日が賑やかで楽しくて幸せいっぱいの日々。
そんな日が、絶対に来ると思ってたのに…。
「う、ん…」
おそらく冷房が切れたからだろうその暑さに不快感を覚えながら目を覚ました。
それとは裏腹に、ふわっとした温かい香りが俺を包む。すごく落ち着く匂い。
ふと顔を上げると、彼女が寝息を立てて眠っていた。
この状況につい眉間にしわが寄る。自分でも何でこうなってるのかわからない。
というのも、いつも彼女は俺の腕の中で眠る形だ。それが今日は何故か状況が逆になっている。
そして今、夢がよぎった。
彼女と別れてしまう夢。俺は婚後の生活も描いていたのに、涙を浮かべたまま微笑む彼女から一言言われる。
『無理よ、誰も祝福してくれないもの』
それからうなされ始めたといっても過言ではないだろう。
不安だ、不安なんだ。
彼女に抱きつき、胸に顔を埋めた。俺の目の前からいなくならないでくれとすがりつくかのように。
その瞬間、彼女が俺の頭に手を回した。びっくりして顔を上げるが、彼女は相変わらず静かに寝ている。
その姿を見てふっと笑ってしまった。幸せだ…これ以上の幸せなんてないくらいに。
「うー…あっつい…」
目を覚ました第一声、彼女はそうつぶやいた。はいはい、と言って窓を開けに行く。すると彼女がベッドで何やら動き始めた。
「どうしたの?」
「待ってください、着替えるから」
なんかもう、こんな事されてたらいじめたくなるじゃないか。ふっと笑って窓に寄り掛かる。
「何をいまさら」
「もう少しだから」
聞く耳なんて立てずにシーツの中でもそもそと動く。どこの小動物だ、お前。
彼女に悟られないようにそっと近づく。
「むあー」
そう言って彼女がシーツから脱出した時、がばっと彼女を後ろから抱き締めた。
「ひゃ!ちょ、どうしたんですか?」
「何でもない」
何でもない。ただずっとこうしていたい。
そう思うのは利己的なんだろうか。常識はずれなんだろうか。他人に迷惑を掛けるんだろうか。
どうかこのまま…。