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雪が降っている。
私が外に出たときに限っていつも雪が降る…雪に嫌われてるんだろうか。
今日こそ担当が内村さんで少し…いや、正直かなりホッとした。
配車まで行くと、何故か車のエンジンがかかっている。
乗って良いのか迷いつつ乗車すると彼が走って来た。
「さすが香西さんだね!気を利かせてエンジンかけとくなんて。さすが香西さん!
うあー、寒!」
確信犯か、この人は。教習所の指示じゃないのか。
「雪降ってますしね」
とりあえず会話を続けると、彼がこっちを向いて話しかけて来た。
「あ、そうだ…昨日はゴメンね?」
知ってたんだ、私が指名してた事…。何だか恥ずかしくて目が合わせられない。
「いえ、そんな…」
「それにしても気を利かせて暖房入れとくなんてさすが香西さん!」
だから、
「私じゃないですよ、最初からエンジンかかってました」
「あ、ホントに?」
あれ、違ったのかな…?
「まあいいや、準備が出来たら発車してください」
昨日乗ったばかりなのに綺麗に走れない。
「昨日乗ったんだよね?」とか死んでも言われたくない。恥ずかしいじゃないか、伸びない姿を見られるのは。
すると横から視線を感じた。
「香西さんさ、運転中固くなってるよね」
「…え?そうですか…?」
考えた事なかった。そんなに硬直してたんだろうか。
何故だか落胆する。
するとしばらく沈黙が続いた。
話をしたい、彼とたくさん。
でも私に話しかけれる余裕なんてなくて。
「香西さん、方向オンチの香西さん」
彼は急に話しかけて来た。内容に苦笑するしかない。
「何ですか?」
「超方向オンチの香西さん、地元で迷う香西さん」
「だから、好きで迷ってるんじゃないですって!」
ネタにされてる、明らかに。でも覚えてくれてた事が何だか嬉しい。
彼は横で笑っている。
「ったく、地元で迷うとかマジどんだけなんだよ」
「…しょうがないじゃないですか。
土地勘も方向感覚もないし、地図だって読めないし」
「検定試験どうすんの?」
「う…」
経路設計なんて出来ない。私はどれだけ彼にお世話になるんだろう…。
「まー、カーナビ搭載の車を買わなきゃだね。
俺の友達にカーナビ付いてても迷う人いるけど」
絶対そうだ。私は『500m先を右方向です』とか言われても、どこが500m先かなんてわからない。
「香西さんもカーナビ付いてても意味ないかな」
「な、いよりはマシです…」
バレた。
「絶対カーナビの付いた車買えよ?」
「はぁ…はい」
「よし、じゃあ今日は検定コース走ります」
遂に来た、私にとっては拷問に近い。無事に教習所に帰れるだろうか…。
彼は私の様子に気付き、優しく笑った。
「大丈夫だって!俺が付いてるし、ちゃんと横から指示出すからさ」
「…はい」
嬉しい。仕方なく言ってくれたとしても、私にはかなり心強い味方だ。
「じゃあコースの説明するよ」
地図を見てもどこの話してるのかさっぱりわからない。
彼が覗き込むように尋ねる。
「わかった?」
「う…はい、多分…」
「ホントかよ!」
とりあえず笑う。
でも実際笑ってられない。短時間でない頭をフルで使って道を覚えなきゃ…。