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『あ、もしもし?今大丈夫ですか?』
仕事中だというのに…いや、仕事中だからか、彼女の声を聞いて癒された気分になる。
「おぉ、今昼休み中だから大丈夫だよ。どうしたの?」
携帯の向こうからえへへ、と声がした。きっと嬉しい知らせなのだろう、彼女の声色だけでわかる。
『明日、退院出来るそうです』
「マジで?はー、良かったねぇ」
うん、と小さく声がした。
『まだ松葉杖らしいですけどね、でも歩こうと思えば松葉杖なしでも歩けますよ』
「いや、そりゃダメだ」
彼女のことだから無理をしてでも早く治そうとするだろう。実際それで美幸に注意された事がある。
「お前すぐ無茶するんだから…心配してるこっちの身にもなってよ」
『むぅ』
「とりあえず、明日迎えに行くから。休みだし」
『最近休み多くないですか?』
「気のせい。完全週休二日制だもん」
もうすぐ生徒の数が増える夏休みに差し掛かるから、まともな休みは取れないかもしれない。だから会えるうちに絶対会っておかないと後悔するだろう。
彼女はクスクスと笑っていた。
『そうですか』
「うん、まぁとにかく明日朝一で帰れるようにしといて」
『はい、待ってます』
「ん、じゃあ今から教習行って来るから、またね」
『はい、行ってらっしゃい』
短い電話を切ってふと隣に目をやると、池田ちゃんが何やらにやにやしながら俺を眺めていた。
「な、何だよ…」
「いいえー、別に何も。ただ幸せそうだなって」
「池田ちゃんだってこんなもんだろ」
「教習の合間縫って電話しませんもん。良いなー、ラブラブじゃないですか」
「うるさいな、恥ずかしい事言うな」
「わー、内村さん顔真っ赤ー!」
池田ちゃんが面白そうにけたけたと笑う。何で俺がこんなにいじられるはめになるんだ。
軽くため息をついて池田ちゃんの方を見ると、優しい笑みを浮かべていた。
「退院おめでとうございます」
「ありがとう」
「香西さんにもよろしく伝えてください」
「わかった、きっとアイツ喜ぶよ」
「あ、今度ダブルデートしましょうとも伝えてくださいね!」
「やだよ」
逃げるように指導員室から出た。彼女の退院を祝うかのように、空は晴れ渡っていた。