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今日は休校日だから彼が来てくれるらしい。結構リハビリも順調で、自分で動けるようになって来たので荷物や部屋を整理する。
お父さんとお母さんに手紙を書こうと思って書き始めたは良いけど、入院期間だからいつ帰れるかわかんないし、バイトもあるし、部活もあるし。スケジュール帳探しがてらに掃除をしているわけだ。
ロッカーをあさっていると、背後からカチャ、と音がした。間違いなく彼だろう。松葉杖を頼りに立ち上がると、ちょうど全開になったドアの扉で彼が見えなかった。
驚かそうと思って彼の背後に忍び寄った矢先、彼が慌てたようにベッドに駆け寄り、乱暴に書きかけの手紙を手に取った。
あれ…どこまで書いたっけ。
彼は少し不安そうな声で言葉を搾り出した。
「…何これ…」
「何してるんですか」
彼がかなりびっくりしたように振り返った。びっくりしたのはこっちなのに…何をそんなに心配してたんだろう。
「焦ったー…どこにいたの?何してたの?」
「ロッカーで荷物整理してました。ホラ、ドア開けたらロッカーって死角じゃないですか」
「そうだ…ね…いつのまに車椅子脱出したの?」
彼が驚きつつも嬉しそうに尋ねた。その姿が嬉しくて嬉しくて、リハビリ頑張って良かったと思った。
「一昨日です。もう少ししたら松葉杖も脱出です」
すると彼はふわりと私を抱き締めた。暖かい匂いが私の全てを包む。
「頑張ったね」
「早く帰りたかったから」
彼はいつも私が求めている言葉をくれる。そのたびに救われた気分になって、すごく落ち着くのだ。
「お土産持って来たから、一緒に食べよう」
「はい」
そう言って二人でベッドの方へ向かった。
相変わらずこのベッドは二人の重さに耐えきれないように悲鳴をあげた。
そんなに古いわけでもなさそうなのに…ということは、私がダイエットしなきゃな感じみたいだ。
というのに彼が持って来たのは有名なプリン専門店のプリンだった。食べない訳にはいかないじゃないか、と頬張る。
「わー、美味しい!一回食べてみたかったんですよね、ここのプリン」
そう言って彼の方を向くと、何やら険しい顔をしていた。何か考え事でもしているんだろうか。
「…新一さん?」
軽く腕に触れると、彼がはっとしてこっちを向いた。
「どうしたんですか?」
「え、何で?」
「何か険しいっていうか…辛そうな顔してたから…」
「あぁ…腹痛いだけ」
その言葉を聞いて彼の手元に目をやると、彼のプリンはほとんど減っていなかった。
「まさかコレが原因じゃないですよね」
「わかんない。車の中に長時間放置してたから」
「そんなもの食べさせないでください!」
彼がいつものように爆笑した。何も変な事なんて言ってないのに。
「大丈夫だって、そんなに時間経ってないから」
彼の優しい目が、一瞬切なそうに見えた。