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私の努力が実ってか、先生は『驚異的な回復力だ』とおっしゃっていた。何とか今月中には退院出来そうだ。
それでもまだする事がなくて、ぼんやりと窓の外を眺める。すると、部屋にノックの音が響いた。
「薫ー!」
「美樹ちゃん!」
私のもとへ駆け寄ってくるやいなや、私を力一杯抱き締めた。
「わー、久しぶりのハグだよ」
「本当だねー。早く退院したいよ」
「まだ随分先?」
「いや、もしかしたら今月中かも」
「ホントに?みんな待ってるよ」
にょー、と言って美樹ちゃんは小さくガッツポーズをした。なんて可愛い子なんだ。よしよしと頭を撫でると、嬉しそうにえへへ、と笑った。
「そうそう、薫の元彼の人…だよね、毎日病室に来てたの」
「あー、うん。最近は実験が忙しいみたいで来ないけど」
「なーにー?寂しいの?」
「いや、別に…」
美樹ちゃんはつまらなそうにえー、と言った。
「でも来てるって事はさ、まだ薫のこと好きなんじゃないの?」
「…だとしたら困る」
「そうなの?」
心配そうに上目遣いで私を見て来た。たぶん私が男だったらイチコロだろうと思いつつ頭を撫でた。
「ごめん、めっちゃ報告遅くなったんだけど、私彼氏出来たんだよ。この世には物好きがいるもんでさ」
「え!?誰!?」
私は無言で頷いたけど、美樹ちゃんは喋って欲しそうな目を向けて、私と同じように頷いた。
でもそれは彼のことを隠したいんじゃなくて、美樹ちゃんが彼を知ってるから気恥ずかしいんであって、きっとそれは伝わっているんだと思う。美樹ちゃんは絶対無理強いはしない。
つぶらな瞳に負けた私は、恥ずかしさを隠すために手元を見た。
「…内村さんだよ」
「え?内村さんて…あの内村さん?古野ドライビングの?」
「う…ん、そう」
「え!?何で!?どういう事!?」
美樹ちゃんは驚きを隠せない表情でこっちを見た。それもそうだよねー、なんて楽観的に考えながら美樹ちゃんの手を握った。
「えーっと、確かあれは3月の…中旬くらいかな?教習が終わるちょっと前に告白され…たんだよね、確か」
「え?電話で?メールで?」
「いや、教習車の中で」
美樹ちゃんは右手で自分の口を覆った。確かにびっくりする事ではある。私ももし美樹ちゃんが同じ事になってたら、驚かずにはいられないだろう。
「嘘…なんか、ドラマみたいだね」
「私もイマイチ信じられないときあるもんね」
「うん、でも内村さんなら絶対に薫を幸せにしてくれるよ」
「だといいな」
二人で晴れ渡った空を眺めた。