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やっと昼休みに入った。二段階の生徒の指導はある程度楽しいが、正直一段階の生徒は退屈で退屈で仕方ない。
コンビニ弁当をガサッと机の上に置いて一息つく。彼女は今頃何してるんだろう。結局考えることはそこに行き着く。
軽く息を吐いて弁当の蓋に手を掛けた時、池田ちゃんがおもむろに覗き込んで来た。
「あれ、内村さんコンビニ弁当ですか?彼女さんに作ってもらったら良いのに」
「今入院してるって言ったじゃん、この前」
「あ、そうでしたね…」
そう言って池田ちゃんはご飯を一口、口に運んだ。よく見てみれば手にしているのは結構小さな手作りの弁当箱。女性ってこういうの几帳面なんだな、と思う。
「池田ちゃんって彼氏に弁当作ってやってんの?」
「一緒にいれる時は作ってます」
「何か良いね…手作りとかそういうの」
半分なげやり、半分羨ましさが入り混じっている。それをごまかすかのように飯を次々と口に入れた。
「退院したら作ってもらえば良いじゃないですか」
「無理だよ、生活時間帯違うもん」
「…彼女さん何やってる人なんですか?」
しまった。そうだった。
池田ちゃんにまだ彼女の事を詳しく話した事がない。
まあ良いか、と思いつつ、気持ち声を小さめに打ち明けた。
「大学生だよ」
池田ちゃんは俺が予想していた通り、びっくりした顔でこっちを向いた。若干口がぱくぱくしている。
「俺を指名してた生徒だったんだ」
「やっぱりモテモテじゃないですか」
「いや、告ったの俺だよ?」
再び池田ちゃんが勢い良くこっちを向いて目を見開いた。もう良いよ、それ、と言いたくなるようなリアクションについ笑ってしまう。
「なに」
「いや、そうなんだなー、って…」
「そうだよ。誰にも渡したくないって思ったから」
「はー…」
池田ちゃんはそう言って箸を置いた。コレは完全に…質問攻めにあう。
「誰、誰ですか?私知ってます?」
「知ってるんじゃない?セット教習とか応急救護とか、池田ちゃんの担当だったし」
「担当生徒がたくさんいてわからない…」
「じゃあわかんないね」
軽く笑って食後のコーヒーを流し込む。池田ちゃんはちょっと黙った後、意を決したように話し掛けて来た。
「内村さん、彼女さんとの結婚考えてるんですか?」
俺はタバコを吸いに行くために椅子から立ち上がった。池田ちゃんに自慢気な顔を向ける。
「まあね」
池田ちゃんはふっと笑って俺を見た。
「彼女さんが羨ましいですよ、ホントに。こんなにも愛されてるんだから」
「そう伝えとくよ」
そう言って俺は喫煙所へ向かった。