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雪が降るすごく寒い日だった。


今日の5時限は香西薫の担当。

まず今日は昨日担当出来なかった事を謝ろう。




あまりの寒さに配車まで走っていくと、彼女が運転席で待っていた。


車のエンジンがかかっている…助かった。



「さすが香西さんだね!気を利かせてエンジンかけとくなんて。さすが香西さん!

うあー、寒!」


そういって暖かな車内に入る。横で彼女が笑った。


「雪降ってますしね」


「あ、そうだ…昨日はゴメンね?」



彼女が一瞬はて、という顔をして、思い出したのか首を横に振った。


「それにしても気を利かせて暖房入れとくなんてさすが香西さん!」



彼女は両手を胸の前で振った。

「私じゃないですよ、最初からエンジンかかってました」


前の指導員が気を使ってかけっぱなしにしてくれたのだろう。


「あ、ホントに?

まあいいや、準備が出来たら発車してください」




昨日運転してただけあって、明らかにうまくなって来ている。

嬉しいやら寂しいやら…微妙な心境だ。


だけど彼女本人はというと硬直した感じだ。笑わないようにしながら横目で彼女を見る。


「香西さんさ、運転中固くなってるよね」


「…え?そうですか…?」



そこで会話が終了してしまった。結構な時間沈黙が続く。

昨日指導出来なかったのがそんなにマズかっただろうか。


それとも俺は嫌われてしまったんだろうか。



焦燥心に駆られた。

だからかどうかは自分でもわからないが、俺だけしか出来ないだろう話し掛け方をする。


「香西さん、方向オンチの香西さん」


彼女は苦笑して何ですか、と言う。


「超方向オンチの香西さん、地元で迷う香西さん」


「だから、好きで迷ってるんじゃないですって!」


彼女は顔を赤くして怒ってるやら笑ってるやら不思議な表情をした。

俺はもちろん笑いが止まらない。


「ったく、地元で迷うとかマジどんだけなんだよ」


「…しょうがないじゃないですか。

土地勘も方向感覚もないし、地図だって読めないし」


「検定試験どうすんの?」


彼女はう…、といって黙った。小動物をいじめてる気分だ。


「まー、カーナビ搭載の車を買わなきゃだね。

俺の友達にカーナビ付いてても迷う人いるけど」


彼女が黙る。間違いない、将来彼女は俺の友達みたいになる。


「香西さんもカーナビ付いてても意味ないかな」


「な、いよりはマシです…」


笑う。ないよりはマシって事は迷うって事だ。


「絶対カーナビの付いた車買えよ?」


「はぁ…はい」






「よし、じゃあ今日は検定コース走ります」


彼女は明らかに固まっている。返事がない。


「大丈夫だって!俺が付いてるし、ちゃんと横から指示出すからさ」


「…はい」



彼女の顔が綻んだ。嬉しさ半分恥ずかしさ半分。

紛らわすかのように軽く一呼吸した。


「じゃあコースの説明するよ」



地図を広げて説明をする。

地図も読めない、地元ですら迷う香西さんの事だ。理解したなんて思ってない。


「わかった?」


「う…はい、多分…」


「ホントかよ!」




二人で笑った。

嫌われてはなかったと明確になり、少し安心した。


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