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仕事を終わらせたあと、こっそりと面会に行く。一応まだギリギリ面会時間だし…大丈夫だ。
ノックをして病室へと入る。すると彼女がボーッとして外を眺めていた。
「薫?どうしたの?」
俺の言葉に彼女がびくっとした。携帯事件と同じような反応に、また何か不安にさせるような事をしたのか心配になる。
しかし、彼女の頬に手を添えてくいっと顔を向けさせると、彼女が顔を真っ赤にさせていた。
「何、どうしたの…」
「べ、つに…何も…」
そう言って俯いたっきり、彼女はうんともすんとも言わなくなった。
「薫…?」
彼女は少し上目遣い気味にこちらを見た。それでもすぐに目を反らし、視線が泳いでいる状態だ。
「何かあったの?」
「…あの!」
彼女があの時と同じように話を切り出した。ただ前と違うのは、彼女の言葉に開き直り感がある所だ。
「け、ケッコンって美味しいんですか?」
「…は?」
『ケッコン』って…血痕?いや、そんな訳ない。じゃあ結婚?
何で唐突にそんな事を…しかも『美味しいんですか?』とか…。そう思ったとき、彼女が少し慌てたように話し始めた。
「か、看護婦さんが…新一さんが結婚をかなり意識してるって、言ってたから…」
思わず固まってしまった。奴め…俺があれだけ慎重に動いてたのに、それを打ち砕くかのようにあっさり喋りやがった。
ならばもう当たって砕けるしかない。彼女の手を包み込むようにして握る。
「結婚って人それぞれと思うけどね…ただ俺のに関しては激甘にするつもりだけど」
彼女の顔を覗き込むと、今までになく顔が真っ赤になっていた。
もうすぐで2ヶ月…出会ってからは4ヶ月だが、それでもマンネリさえ感じさせない彼女に愛しさが募る。
そのままゆっくりと顔を近づけ、そっと口付けをした。そのまま押し倒してしまいたい衝動に駆られるが、彼女は怪我人だし、ここは病院だし、常識と理性がそれを懸命に引き止める。
少し顔を離し、もう一度口付ける。この時間と幸福感と女性と、全てが永遠に俺のものになってくれることを願うかのように。
「早く怪我治してドライブに行こうよ」
彼女の唇から離れてそう言った。彼女は顔を赤らめたまま、嬉しそうに笑ってくれた。
「頑張ります」
「無理したらお仕置きだからね」
「な、何でですか!」
「何ででも」
そう言って彼女の髪をくしゃっと撫でた。