-127-
今日から彼女のリハビリが始まった。彼女の頑張り次第では約一ヶ月くらいで退院出来るそうだ。
ただ『あの』彼女の事だ、無理をしかねない。
仕事中も彼女の事が気になって気になって仕方がなく、かなり落ち着きがない状態だ。教習中は生徒との会話で何とか紛れはするが、空き時間なんかは携帯を片手にそわそわしてしまう。
出来る事なら一日中彼女のそばにいてあげたかったが、仕事もあるし、彼女に付きっきりになる訳にはいかないのも十分承知している。でも…それでも彼女の事が心配でたまらないのだ。
休み時間中、池田ちゃんが隣の机から話しかけて来た。
「内村さん、大丈夫ですか?何かさっきからそわそわしてますけど…」
「んー…いや、俺の彼女がさ、一ヵ月前に交通事故に遭っちゃって。最近意識戻ったんだけど、今日からリハビリらしくて心配で…」
「それはまた災難でしたね…でも危険予測ディスカッションなんかに使えるんじゃないですか?」
「あー…っと、今回の事故パターンは危険予測とちょっと訳が違うやつだから、使おうに使えないかも…」
じゃなくて。
「とにかく、アイツは色々と無茶しそうだから心配なんだよ」
すると池田ちゃんがクスッと笑った。笑われる心当たりがない。いつも彼女はこんなふうな感じなんだ、と思いながら口を開く。
「面白いことなんて言ってないけど?」
「すみません…何か彼女さんが羨ましいなって」
「何でよ」
「だってあんなモテモテな内村さんからこんなに大事にされてるじゃないですか」
自惚れたくはないが、確かにモテているとは思う。実際言い寄って来た生徒は江原さんが初めてではない。
「でもさ、俺に限ったことじゃなくて、指導員って大体モテてない?」
「私生徒から告白された事ないですよ?」
「それでもさ、池田ちゃん指名してる男子生徒多かったじゃん」
少し首を傾げたあと、池田ちゃんがためらいがちに頷いた。
「知ってる?こういうの『教習所マジック』って言うんだよ」
だから、正直なところ卒業したらそのほとぼりは冷める。俺が彼女と一緒に入れるのは、彼女が決して『教習所マジック』にかからなかったからだろうと思う。
「とりあえず俺は生徒以外からはほとんど告られないから、モテてるとは言えないと思うよ」
「まあでもね、内村さんの事狙ってる生徒たくさんいますよ。彼女さんにあまり不安感じさせないようにしてくださいね」
「そうする」
俺は笑顔で立ち上がって喫煙所へ向かった。




