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頭がぼんやりする。さっきから思考回路が無限ループに入ってしまった。
旦那さんって彼よね?妻って呼んでたのホント?なら結婚するの?まだ早いよね。じゃあ数年後?そもそもそこまで続くの?てか子供って…。
この繰り返しだ。
頭が痛くなって来たので無理矢理考えるのをやめた。すると、静かになった病室に携帯のバイブの音が響いた。
とっさに体が反応した。どこ!?体が思うように動いてくれない。
すると看護婦さんがやって来た。
「どうしましたか?」
「いや、携帯をずっと探してて…今バイブ鳴ったから近くにあるのかなって」
「えーと…」
看護婦さんが何やらきょろきょろし始めた。私の携帯を探してくれているらしい。
「あ、ありましたよ」
大量に積まれて若干ごちゃごちゃしている荷物の中からやっと携帯が出てきた。
何故か充電の切れてない携帯…きっとお姉ちゃんが家から充電器を持って来てずっと繋いでてくれたんだろう。なら携帯の在処を教えてくれれば良かったのに、と恨めしく思う。
携帯依存症の女子高生みたいだ、と自嘲しながら携帯を開く。
そこにあるのは大量のメールと不在着信だった。
先に不在着信を確認すると、30件以上不在があり、その主は全て彼だった。最初の方は一日に5、6回かかって来ていたのに、最近の日付になるにつれて2、3日に1回となっていた。
誰も彼に知らせてくれないとはいえ、この結果に少し傷つく。
それから気を取り直してメールを確認した。部員からの連絡メールが多数を占めていたけど、それ以外はやっぱりもっぱら彼だった。一通一通確認するたびに胸が痛くなる。
『今から電話出来る?』
『水曜休みになったんだけど会えないかな?』
『忙しい?メールウザかったらやめるよ』
『何かあったの?俺で良いなら話聞くよ』
『忙しいのか何なのか知らないけど、無視はナシだろ。俺のことが嫌になったんならはっきり言えよ』
思わず携帯をベッドに落として両手で口を覆った。涙がとめどなく溢れて来て、どうやって止めたら良いのかわからない。
私は今まで何をしてたんだろう…。
入院していたとはいえ、彼に嫌な思いしかさせてなかった。最低な彼女…もう彼女失格だ。色んな思いが交差し、ただただ泣くしかなかった。
それなのに彼は私の入院を知るや否や病室まで駆けつけてくれ、ずっと私の面倒を見てくれていた。
でも今、彼の姿はここにない。
彼はどんな気持ちで私と接しているんだろう。『嫌になった』んじゃなく、『嫌になられた』ならとてつもなく悲しい。
次に彼が来たときは思いの丈をぶつけるしかない。きっと不器用な私たちはそれ以外の術を知らないのだろう。