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ゆかりさんが帰ってからは孤独な時間だけが過ぎていった。昼下がりだというのに、私はただただ外を眺めるしかなかった。
彼は今、何をしてるんだろう…。
その瞬間にはっとした。携帯を探すが見つからない。
あの彼のことだ、連絡が取れなくなって心配してるんじゃないかな…。
早く聞きたい、彼の声。独りぼっちで、寂しくて、辛くて、そんな私をいとも簡単に包み込んでくれるだろう。
その時、再びノックの音がした。ふわっと病室のカーテンがゆれる。
ドアのところには奏が立っていた。小さな花束を持って、挨拶代わりに少しだけ手をあげた。
「具合どう?」
「ん、元気だよ。せっかくの晴れだから早く散歩したいって思うくらい」
「彼氏さんは?来た?」
その言葉に胸が詰まる。私と彼が付き合ってると誰も知らない今、彼に私が病院にいることを知らせる人はいない。
傍にいてほしい。だけどそんな願いは届くはずなくて。
絞りだすように言葉を出した。
「来てないよ…連絡手段ないんだもん」
「携帯は?」
「見当たらなくて…」
うつむいてしまった私の頭を奏はやさしく撫でた。
「そういえば今更だけど、何で奏は私がここにいるの知ってるの?」
奏が撫でていた髪の毛をくしゃっとした。彼と同じその行動に切なさが込み上げてきて、涙が出そうになった。
「何でも何も…救急車呼んだの俺だし」
「何で?」
「たまたま通りかかったんだよ」
そう言って手を私の頭から離した。
目が覚めた日から毎日病室に来てくれる奏。昨日も、今日も、きっと明日も。
こんなにも想ってくれているのはあの頃と変わらない。でもあの頃と違ってその気持ちには応えることが出来ない。
「…ごめんね、奏…」
「どうしたの、急に」
「ううん、いつも傍にいてくれてありがとう」
「何だよ今更」
奏が屈託のない笑顔を見せた。
早く良くなろう。支えてくれる奏のためにも、一日も早く。