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帰り道は彼女が運転することになった。この前とは違ってカーナビを起動させる。
「はい、じゃあ準備が出来たら発車してください」
はい、と彼女が笑顔で言った。
昨日の夜に俺の腕の中で告げられた言葉…『しばらく新一さんとは会えません』
それは嫌われたからでも何でもなく、大学が始まってしまうからだ。休みも合わなくなるし、夜だって部活があるからそう簡単には会えなくなる。
隣に座っている彼女は家も活動場所も近いというのに、果てしなく遠くにいる感じがする。
「しばらく会わなくなるって事はさ、しばらく運転しないって事だよね」
「う、ん…はい、そうですね」
いつかと同じように前を向いたまま彼女が答えた。
「あーあ、折角感覚が戻って来たっぽいのにまた運転しなくなるんじゃ…俺もう乗らないからね」
「何でですか」
彼女がちらっとこちらを向いた。
「え、補助ブレーキないからだよ。今だって心臓バクバク」
彼女がハンドルを握る力を強めて、うー、と唸った。
この状態でさえまだいじり足りないと思う俺は、彼女の言うとおりドSなんだろう…何故かなんて今更説明する必要はない。
「たぶん部活の関係でたまに車乗りますよ」
「可愛そうな部員さんたち…」
「どういう意味ですか」
苦笑している彼女を眺めながら笑った。が、それはから笑いでしかなかった。
気付いて欲しい。物凄く寂しいと思ってる事、ずっと傍にいて欲しいと思ってる事、そして、これからも一緒にいたいと思ってる事。
『私と仕事のどっちが大事なの!』
こんなセリフはドラマの中でだけだと思っていた。実際この言葉を投げ掛けられると訳が分からなくなる。
『…仕事』
そう行って俺は元カノと別れた。どうして同時に計りにかけられないものかけるんだ。
そして彼女も…同じ事を言って俺から離れていくんだろうか。
「…え、聞いてます?」
彼女の言葉にはっとした。折角旅行に来たのにこんなんじゃ楽しめない。最終日なんだからもっと楽しまなければ。
「ごめんごめん、どうしたの?」
「どっかインターチェンジ寄りませんか?昼食がてら休憩しましょう」
「良いよ」
ポケットに入っている渡しそびれた『プレゼント』を握り締めて、笑顔で答えた。