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あれはまさにジェットコースターのような恐怖心だった。
彼女の運転が卒検以来…つまり約二週間ぶりとあってかなり危なっかしかった。しかも今回は補助ブレーキなんてないもんだから、不安で不安で仕方がない。
しかしいざ乗ってみるとそうでもなかった。確かに相変わらず判断が遅かったり、速度が遅かったりはしたが、教習の時と同じ感じでとても楽しかった。
「はー…それにしてもカーナビないとあんなに苦労するんだね」
車から降りてドアを閉める。
「何でカーナビ消したんですか!訳わかんないことになっちゃったじゃないですか」
彼女が文句を言いながら車からおりて来た。それも仕方ない。県外という彼女にとってはある意味新大陸で、カーナビも使わずドライブしていたのだ。
「まぁでもカーナビあったって薫使いこなせないでしょ?あってもなくても一緒」
小動物が些細な抵抗としてむぅ、と唸った。俺がナビを起動して運転しなかったら、今頃ここに帰り着いてなかっただろう。
「そんなことないです、私カーナビ使えますもん」
「え?ここ来るとき理解してなかったじゃん。
地図が読めない薫さまはカーナビも使えないでしょ」
「…ドS」
彼女が戦法を変えて来た。めっきり弱い彼女につい笑ってしまう。
「だぁって薫ドMなんだもん」
そう言って耳元に顔を近付けた。彼女がぴくんっと動く。
「アレはドM以外のなにものでもない反応だったけど」
そうささやいて彼女から離れた。彼女の顔がみるみる赤くなっていくのがわかる。
「バカ!変態!」
部屋に戻っても彼女はわざとらしく無視して来た。ちらっとこっちを見てくる辺り本気で怒ってるわけではないらしい。
…ツンデレめ。そう思いながら彼女に近づいて行く。
そして、
「ひぁ!」
不思議な声を上げた彼女を無理矢理といわんばかりに捕獲した。一生懸命抵抗しているが、彼女はあまりに非力だった。
「ねぇ薫、何で無視するの」
「何でって…自分の胸に訊いてくださいよ」
「わかんないなぁ」
そう言って彼女の唇を奪った。彼女は声になってない声を発している。
「可愛い」
彼女から離れた俺はそのまま彼女を抱え上げた。さすがにここまで来ると、次に何が起こるのか理解出来るようになって来たみたいだ。
「ちょ…っ、と…!」
彼女を布団の上に降ろし、上着に手を掛けたその時だった。
邪魔をするかのように彼女の携帯が鳴った。彼女が携帯を手に取ると、電話だったらしい、耳に当てて話を始めた。
だが彼女の様子がおかしい。
「…奏…?」
眉間にしわを寄せたまま知らない名前を呼んだ。