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前回より話が盛り上がったからか、あっという間に時計が終了15分前を指していた。
彼がおもむろに口を開ける。
「セリーヌ・ディオン知ってる?
確かフランス語は喋れるけど英語が喋れなくて、それで…」
高校の時に英語の授業に出て来た。
「あれ、カナダの人でしたっけ?
カナダの公用語って確かフランス語と英語ですよ」
え、そうなの?と横で驚いている。その辺知ってようよ…。
「ベルギーもフランス語と何かが公用語だったよな」
「ドイツ語でしょう?」
一呼吸置いて話を続ける。
「私来年の三月、ベルギーとフランスに留学するんですよ」
「まじで!何買って来てくれるの?」
…
「え?」
家族に?部員に?
いやいや、彼に、だ。ちらっと横を見ると嬉しそうに前方を見つめている。
何を考えてるんだろう。
まず来年の三月にはもういないし、そりゃ連絡先を知れば可能なんだけど…とかそんなんじゃなくて!
ワインか?チーズか?マカロンか?
脳が消化不良を起こしている。
「…え?」
「え?」
暗黙の了解と言わんばかりに笑顔だけを向ける。
何が欲しいか聞くのか?連絡先を聞くのか?
違う違う!
訳がわからなくなって来た所で彼がフランスの自動車メーカーについて語り出した。心なしか楽しそう。
ホントに車が好きなんだな、この人。何だか微笑ましい。
話は不思議な方向へ向かっていった。
「そういやさ、ダヴィンチってフランス人?」
「え?そうでしたっけ?
イタリア人だった気が…」
自信は全くない。
「あれ、フランスに住んでなかったっけ?
それにしてもあの人凄いよな。画家で…」
「医者で、建築家で、彫刻家…?だったかな」
「天才だよなー…もはや変態だな」
アクセルを踏んだ瞬間にそんな発言を…。
しかもあんなすごい人を変態呼ばわりしてる人、初めて見たよ。
「そんな事言っちゃダメですよ!」
「変態だよね」
「か、変わった人と言いましょうよ、そこは」
「ま…でも芸術家って変わり者が多いよね。感性が違うからかな?
絵が上手い人って描き方が違うもんな」
あぁ、アレか。
中学校の部活でしてたデッサンを思い出す。
「まず軸から捉えますもんね」
すると彼がこっちを向いて話し始めた。
「香西さんめっちゃ絵上手そう!そんな感じがするよ。わかる」
「そうですか?」
喜んではみたけど、このくだりで絵が上手そうって…正直複雑。
「俺絵心なくてさ、アンパンマン描いたらまわりに『じゃがいも』って言われちゃってさ!
酉年の年賀状とか頑張って鶴描いたのに、みんなから手抜きとか言われて…」
彼が笑いを堪えながら話す。
私も堪らず笑ってしまった。
「じゃあ今度、じゃがいもみたいなアンパンマン見せてください」