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いつもと同じ、退屈な同じ道のり。
唯一の救いは毎時間違う生徒との会話で…
俺の名前は内村新一、歳は28。
古野ドライビングスクールに勤め始めてはや6年が経過しようとしている。
今日の担当の生徒は香西薫。
2段階の2時限目らしい。
ということは…
「まだまだ下手な感じかな」
時間になり車に行くと、若い女性がちょこんと座っている。
寒いのだろうか。
「こんにちはー、お願いします。」
彼女は笑顔で教習原簿と仮免許証を差し出して来た。
「宜しくお願いします」
緊張しているのか、指示に対して「はい」と言うか頷くだけで、車内には沈黙が流れる。
ただでさえ同じ事の繰り返しの仕事でキツイのに、沈黙が流れたらたまったもんじゃない。
ネタを探していると、丁度目の前に止まっている車のナンバープレートの両端にピンクのハイビスカスのシールが貼ってあった。
「あ、花が咲いてる。ホラあれ。」
指先を彼女が見つめ、ホントだー、と言った。
「俺絶対あんなの出来ない!恥ずかしいもん!」
その言葉に彼女が笑った。
「剥いでも跡残りますしね」
結構可愛い顔で笑うもんだな、と思った。
今まで可愛い生徒は何人も見て来たが、違った可愛さがある。
媚びてないというか、気取ってないというか。
車はまだ教習所に近いところにある。
授業は始まったばかりだ。