第82話「黒」
学年が上がり、2年生となった。
しかし、そんなイベントが起きようともオレこと倉崎錬磨は変わらない日々を過ごしていた。
オレの生活は至ってシンプルだ。
朝学校に登校し、授業中を除くほとんどの時間は今現在もいるこの部室で時間を潰している。
普通の学生なら友人と話し合ったりするのだろうが、あいにくオレはそういう馴れ合いが苦手だ。
その後しばらく読みかけの小説を読み耽り、すでに夕暮れになっていることに気づく。
「……帰るか」
読んでいた小説のページに栞を挟み、鞄へ仕舞う。
そして先ほどまで使用していたマグカップを備え付けられている水道で洗って棚へと戻す。
マグカップやインスタントコーヒーなどは持参であるが、この部室にはある程度生活に困らないレベルの設備が整っている。
正直彩咲先生がなぜこのような良条件な部室を確保できたのか理解が及ばないが、使えるものはありがたく使わせていただこうと思う。
部室を出て下駄箱へと足を運ぶ。
学校に残っている時間としてはすこし遅い時間であるためか、廊下ですれ違うような人はそうそういない。
ふと、女子生徒がオレの横を通り過ぎて行った。
急いでいるのか、すごい速さで廊下を駆け抜けていった。
「………」
オレはその場に立ち止まり、そのまま立ち尽くしていた。
……いや、その場から動けなかったというのが正しいのだろうか。
その女子生徒から……いや、その女子生徒の側から底の見えないほど黒い『色』が見えたからだ。
本能的にやばいと感じているのであろう、オレは冷や汗を流していることに気づく。
「……倉崎か?」
肩をポンっと叩かれ、驚きのあまり飛び退いた。
「……っ! 彩咲先生……ですか」
「どうした? 顔が真っ青だぞ?」
「……いえ、お構いなく」
「大方、綾乃……今走って行った女子生徒のことだとは思うけどな」
オレの思考はどうやらこの先生には見透かされているようだった。
それはそれで気に食わないが、オレの事情を知っているのであれば大体の察しがつくのは容易に想像できる。
「なんですか、あの生徒」
「何かって言われると普通の生徒だが、そうだな……一言で言うならあいつもこちら側の人間だってことだ」
「ちょっと待ってください、それはどう考えてもおかしいですよ」
少なくともこの一年間、色々な『色』を持つ人間を見てきた。
しかしあそこまでどす黒いほどの『色』を持つ人間、ましてやこの学校の生徒は見たことがない。
「そのことなんだが、正直私も今回ばかりは驚かされたよ。だから倉崎」
彩咲先生は真剣な顔付きで言った。
「私に協力してくれないか?」
その申し出に対し、オレは手を取ることはない。
……しかし、これが彩咲先生がオレを部活に引き入れた理由なんだと気づく。
「ひとまず情報が足りません。その辺をまとめてからまた話しましょう」
部活のことは置いておいてもすこしあのどす黒さは気になる。
ひとまずこれからの方針を自分なりに考え始めるのだった。
お久しぶりです。月見です。
ようやく想いの通じ合った綾乃と姫城の物語がひと段落しました。
しかし、これで全てが終わるわけではなく、今回の話にもあるようにまだまだ話は続きます。
今後の話は今回までの話とはだいぶ違う系統の話となリますがここまで読んでもらった人もこれからも読み続けて頂ければと思います。




