第78話「感傷」
教室を出た私と千奈ちゃんは人気の少ない特別教室等の屋上手前にある踊り場へと来ていた。
とは言え、正直どこから話すべきか……。
そう考えながら千奈ちゃんに拙い言葉ではあるができる限り詳細に今までの出来事を話していく。
「……それで私は姫城君と付き合うことになって、嬉しさの反面に夏妃ちゃんや零人君のことが気にかかっちゃって」
「……確かにそれは少し難しい問題だね」
しばらく2人で考え込むが、このような経験がほぼ皆無である私たちには解決法など思い浮かぶこともなく時間だけが過ぎていく。
「ちょっといいかな」
「え?」
踊り場から見て下り階段の方から声をかけられる。
声の主はせんちゃんだったようで、ここで会うとは思っていなかったからか驚きを隠せないでいた。
「せ、せんちゃん? なんだか久しぶりにあった気がする……」
「うん。確かにここ数日は色々あったみたいだから直接会うのは久しぶりかもしれないね」
久しぶりに会ったせんちゃん。
だけれど、その声質と表情は少し前とは違うように思える。
「……あの、せんちゃん。少し失礼かもしれないんだけれど、怒ってる?」
「うーん……感情を言い表すのは少し難しいかな。怒ってるという感情も少しあるし、仕方ないという気持ちや少し感謝している節もあるし」
少し理解が難しいことをいうせんちゃん。
しかしその言葉の意味を一つづつ解読していくとなんとなくだけれど理解できる気がする。
「夏妃ちゃんのこと、だよね。きっと」
「……正解。それと、さっきの話聞いちゃってたんだ」
さっきの話……つまり今まであった出来事を聞いたということだろう。
「私ね、なっちゃんが泣いたところって初めて見たんだ。あの子は基本的に感情を表に出さないし」
私はその話を黙って聞いていた。
いや、その原因が私であるということがなんとなく察しがついていたからだろう。
「泣いた理由を聞いたら、なっちゃんなんて言ったと思う?」
「え? うーん……」
少し考える。
しかしその間を与えられずにせんちゃんは言った。
「『偶然とはいえ綾乃に悪いことをしちゃった』って子供のように泣きじゃくりながら、ね。きっとなっちゃんは自分で思っていたよりもあやっちのこと大事に思っていたみたい」
せんちゃんのその言葉を聞いて私の心がぎゅっと締め付けられる。
正直なところ泣いてしまいそうになるくらいだった。
「だとしたら、なおさら私は夏妃ちゃんにどんな顔をして会えば……」
「そうだね。でも、そう思っているのはきっとあやっちだけじゃないと思うんだ。っと、私はこれで失礼するよ。あやっち達もお昼まだなら早くしないと時間なくなっちゃうよ」
せんちゃんがその場から去っていく。
スマホで時間を確認すると、確かにそろそろお昼を食べないと時間がなくなってしまいそうだ。
「せんちゃんは優しいね」
「うん。でも、やっぱり私はどうすればいいかまだ分からないよ」
「……綾乃ちゃん。せんちゃんはきっと綾乃ちゃんを励ましに来たんだと思う」
「そう、なのかな」
「だってそうじゃなきゃ綾乃ちゃんのところにくることはないだろうし、有馬さんの話をすることもないと思う。きっと、有馬さんのことを話した上で綾乃ちゃん自身に答えを見つけてほしいんじゃないかな」
私自身の答え……か。
「……うん。もう少し考えてみる。とりあえず一旦戻ろっか」
まだ課題は多そうだけれど、ひとまず教室へと戻っていくのだった。




