第76話「過去の精算」
姫城くんの手を引いて学校の校門前へと辿り着く。
早めの時間であることもあって人通りはほとんどないようで、校舎を跨いだグラウンド方面から朝練をしている運動部の声が聞こえるくらいだった。
なんだかこんな感じで周りの状況を感じ取るのも久しぶりな感じがする。
そしてそれが私の精神状態によるものであり、それによって私がして来た行動を思い出させていた。
「……そうだった」
「……金森さん? どうしたの?」
「うひゃぁ!?」
耳元で急に姫城くんの声が聞こえ、びっくりして変な声が出た。
そういえばさっき手を引いていた時からずっと手を繋いでいたままだったことに気づく。
「ご、ごめん」
繋いでいた手を離し、咄嗟に謝罪の言葉が出る。
特に意図していなかったけれど、意識した瞬間にだんだんと恥ずかしさと言うか照れ臭さが込み上げてきたみたいだ。
「あはは、謝る必要はないよ。だって俺たち……恋人同士だし」
自分で言っていて恥ずかしいのか、姫城くんは『恋人同士』というあたりから声が小さくなっていた。
それを聞いて私も顔が赤くなっていっているんだろうと思うくらいに顔が熱い。
「……なんていうか、お前ら初々しいな」
私たちを見て呆れたかのように桜田くんがそう言い、一緒にいる千奈ちゃんと石川くんもとても笑顔だった。
「そ、それはそうとして! みんな、聞いて欲しいの」
先ほど私が思い出したことに話題を切り替える。
私のみんなに対して不快な想いをさせてしまったこと、自分勝手な行動したことをどうしても謝りたかった。
……だってみんなはそんな私でも今もこうやって接してくれているから。
「みんな……ここ数日間、本当にごめんなさい」
深々と頭を下げる。
「私は自分のことしか考えられなくて、みんなを突き放すようなことばかりしちゃってた。でもやっぱり、こんな私でもみんなと一緒にいたい」
自身のやってきたことを精算するように私は今の想いを口にした。
謝罪をしてもやってきたことの事実は変わることはない。
だからこそ、私は変わりたい。
「……ふふっ」
千奈ちゃんが少し笑う。
そしてつられるかのように姫城くんたちも笑い始めた。
「え? えぇ?」
「確かにあの時はちょっと悲しいなって思った時もあったけれど、そもそもわたしは綾乃ちゃんがいてくれなければ今でもずっと1人だったし、こういう経験……って言い方はちょっと悪いかもしれないけれど、こんな体験をすることはなかったと思うの」
「それはそうかもしれないけど……」
だとしても千奈ちゃんはもう一人じゃない。
例え私の元を離れていってしまっても、今の千奈ちゃんなら友達を作ることにはそう苦労などすることはないはずだ。
「でもね、そんなことがあってもわたしはやっぱり綾乃ちゃんを嫌いになんてなれなかったの。つまり、えっと……」
「要はそんなことで繋がりは消えないってことだろ? 俺と沙輝なんて見てみろよ。わりかし本気で殴り合ってもこんな仲なんだぜ?」
確かに姫城くんと桜田くんは殴り合いになっても前と変わらないように見える。
「それくらいで離れていく人なんて仲間と呼べるほどの人じゃなくて知り合いというレベルだと俺も思うよ。だからさ、金森さんも顔をあげてよ」
言われて下げていた頭を起こす。
「金森さん」
差し伸ばされた手。
それに私は手を伸ばす。
私は少し泣きそうになったけれど何とか堪えて返事をする。
「うん!」
私はなんていい仲間に巡り会えたのだろう。
きっとこれ以上に今後いい仲間に巡り会うことはないのかもしれない。
……それに私にはまだ言わないといけないことがある人がいる。
「……ってあれ?」
ふと、もう1人誰かいたような感覚に陥る。
しかし次の瞬間には気のせいだと思い始める。
「………?」
なんとも違和感が拭えなかったが、私はみんなと共に教室へと向かうのだった。




