第74話「紡ぐ」
しばらく歩き、たどり着いたのは先日も訪れた公園だった。
昔姫城くんと出会ったあの公園だ。
ベンチに座ってしばらくの沈黙の後、姫城くんが口を開いた。
「俺はさ、自分の名前があんまり好きじゃ無かったんだ。理由は大体察することができると思うけど」
その話は先日桜田くんの話で大体察しがついていた。
私は姫城くんの話をただただ黙って聞いていた。
「でも、そんな名前をいい名前だと昔言ってくれた人がいるんだ」
初耳だ。
そもそも私は姫城くんのことを直接姫城くんから聞くことが少ない。
だから姫城くんの話にはとても興味があった。
「俺はその時からその人、女の子のことが好きでさ、小学生の時からずっと想っていた」
「むっ……」
姫城くんに想われるその人に嫉妬してしまう。
その子のことがとても羨ましかった。
私のそんな感情に気付いているかどうかわからないけれど、姫城くんは話を続ける。
「だからさ、高校入学の日は奇跡かと思ったよ。初めに会った同級生がその人だったんだから」
「……え?」
入学式の日に初めに会った同級生……?
確か姫城くんは入学式の時桜田くんと一緒ではなかった。
そして姫城くんが学校へ向かう途中、私と出会ったはずだ。
流石にここまでくると普段察しの良くない私でもどういうことか答えは分かる。
私がそのような思考を巡らせていると姫城くんは立ち上がり、こちらへ向き直る。
「俺も金森さんのことが大好きだ。付き合って欲しい」
手を差しだして笑顔でそういう姫城くん。
とてもびっくりしたけれど私は差し伸べられた手を取って立ち上がり、
「うん!」
あの日、姫城くんが声をかけてくれた場所と同じ場所。
数年越しの運命のような出来事。
嬉しさで目に涙を浮かべながら私も笑顔でそう答えた。
きっと私1人ではおそらく辿り着けなかった。
ここまで来れたのは千奈ちゃんたちがいてくれたからだと思う。
もし私1人だったら心が折れたり、諦めていたと思う。
だからこそ、みんなによって紡がれたこの居場所を大切にしていきたい。
ーーー
紡がれた想い。
それが一つになった。
彼女たちのことは明日になってから学校の多くの人々に広まるだろう。
色々と策を立てた。
金森綾乃という少女を公園まで手を引いて、落ち込んでいるときにはそばで見守り、姫城沙輝という少年からきっかけを拝借して金森綾乃へと渡るように仕向ける。
そして最後に迷った背中を押した。
そして2人は結ばれ、あたしが理想とする結末を見ることができた。
お世話になった2人に別れを告げられないのは少し辛いけれど、きっとみんなは思い出さない。
それでもあたしに後悔はないはずだ。
でも一つだけ心残りがある。
「翔……」
いつも、いつだってそばにいてくれていた桜田翔という幼馴染の男の子。
彼にずっと恋焦がれていたが、最近の彼は浮かない顔をしていることが多い気がする。
彼にはそんな顔をしていてほしくはない。
わたし……佐野梓はその心残りだけを残して誰も気づくことのない日常へとさらに深くまで踏み込むのだった。




