第72話「きっかけ」
ガチャリと重い扉が開かれ、屋上への道が開かれる。
吹き込む風と陽の光に一瞬目を閉じ、徐々目を開いていく。
「わぁ……」
屋上で最初に目に写ったのは地平線と重なる綺麗な夕日だった。
私とみなちゃんは屋上の入り口から少し歩いていく。
そしてネットフェンス前まで進んで足を止める。
私はみなちゃんが足を止めた後、ふとした疑問を投げかけた。
「どうしてみなちゃんは私を気にかけるの?」
「そんなの先生なら当たり前じゃないか?」
「そんなわけないよ」
少なくとも中学校の頃の先生にはそんな思想を持った先生はいなかった。
「みなちゃんはなんていうか、先生っぽくないし」
「むっ、これでもれっきとした先生なんだぞ」
「いや、そういうことじゃなくて……なんていうかな」
悪い意味ではなく、むしろいい意味なのだけど……。
「確かに綾乃の言ってることも間違いじゃないかもしれないな。理由は単純だ。昔の友人に似てるところがあってほっとけないって思ったことが一つ」
「一つってことは他にも何かあるの?」
「まあな。それについては今は伏せておくことにするよ。実際それどころじゃないだろお前」
確かにそうだ。
今の私の頭の中は姫城くんでいっぱい……っていう言い方だとちょっと語弊があるけれど実際そのことで頭がいっぱいだ。
みなちゃんは少なからずそういうことに気づいたのだろう。
「うん。もしかしてだけどだから私をここに連れてきたの?」
「似たようなものかな。実際にはこいつを渡したかったからな」
羽織っている白衣から何かを取り出すみなちゃん。
取り出したそれに見覚えがある。
「それって……」
みなちゃんの手にあるのは手帳だった。
私が知る限り、その手帳を使っている人物は1人しか知らない。
「まあそういうことだ。綾乃、お前から返しておいてやってくれ」
そう言ってその手帳……姫城くんのであろう手帳を私に渡してくる。
「でも、私は……」
自信がない。
というよりもとても怖かった。
「大丈夫だよ。お前なら」
「大丈夫って……みなちゃん」
そこでハッと気づく。
みなちゃんはきっと知っていたのかもしれない。
私がどんな状態でどうすればいいかわからなくなっていることを。
だからこの手帳を……きっかけをくれたんだ。
「確かに渡したからな。私からの用はそれだけだ。後は軽く屋上を見て回るからもう戻ってもいいぞ」
「……うん。ありがとう」
それだけ言って屋上を後にした。
……とは言ったものの、私の迷いはまだ消えていない。
でも、私はみんなから背中を押されている気がする。
正直今後のことを考えると、もう今までのように戻れないかも知れない。
私はそれが怖い。
そんな感情を押し殺すかのようにグッと手を握った。
ぐしゃっ。
手に持っていた手帳のことを忘れて結構な力で握ってしまっていた。
慌てて手を開く。
手帳は手元から離れて地面に落ち、その衝撃で手帳に挟まっていたものも飛んでいった。
「うぅ……」
悪気がなかったとはいえ、先ほど決心した意気込みが消えそうになる。
とりあえず手帳を拾い上げ、飛んでいったものに手を伸ばす。
飛んでいったものはどうやら固い紙……写真のようだった。
「……え?」
拾い上げた写真に映っていたのは幼い時の夢の中の少年と私の姿だった。




