第66話「目に映ったもの」
「……ごめん」
私の伝えた想いに対し、姫城はそう言った。
「俺、ずっとすきな人いるんだ」
わかっていた。
頑張っても私じゃ追いつけない。
そんなのはわかっていたはずだった。
でもやっぱり心が痛い。
そう表現するしかないくらいに感情が揺さぶられていた。
「……うん。知ってたわよ」
「え!?」
「そんなの見てればわかるわよ。それより……」
辛い気持ちを表に出さないように私は言葉を発する。
「せっかくだから今日は最後まで付き合ってほしい」
「……うん。わかったよ」
精一杯の私の言葉に姫城はそう答えた。
私は泣かない。
どんなに辛くてもすきな人を困らせたくないから。
泣くのは1人の時でいい。
だから今日この時間だけは私は私を偽って姫城と過ごす選択をした。
「ちょっとその辺歩きましょうか」
私はそう伝えて1人歩き出す。
それについてくるように姫城も後に続いていた。
「一つ聞いていいかしら」
「うん」
「一番最初に出会った時、姫城は私に対してどんな印象だった?」
「え? ……そうだね、強いていうなら一匹狼……かな。あ! いや、でも今はそう言うのじゃなくて……」
「ふふっ、確かにそう言われても仕方なかったわね。多分中学時代の私が今の私を見たら絶対驚くもの」
少し冗談混じりに会話を続ける。
自分でさっき言った通り、私は前より変わったと思う。
今までの私ならくだらないなどと思いながら1人で過ごしていたかもしれない。
「それもこれも姫城と出会ったことがきっかけ」
「そ、そんなことはないと思うけど」
「いいえ。間違いなく姫城がいたからよ。まあフラれちゃったんだけれど」
「……ごめん。でも俺は」
「わかってるつもりよ。姫城は自分の意思を曲げたりしないってことは知ってるわ。だから、これからも友達として一緒に過ごしてもらえるかしら?」
「うん。そういうことなら。こちらこそよろしくね」
友達……か。
今まで友達なんて別に必要ないと思っていたのに。
きっかけは姫城だけど、やっぱり根本の原因は綾乃によるものなんだろう。
初めの頃は絶対に仲良くなるなんてことはない、私とは対照的な存在だと思っていた。
それがいつしか、自分で言うのは恥ずかしいけれど友達と呼べる存在になれたのだろうか。
きっと綾乃の中では私は今でもライバルなのかもしれない。
彼女に対してひどいこともたくさん言ったし、私自身敵対心をむき出しにしていたから。
だから、私は近いうちにこのことを精算しなければならない。
そうすべきなんだと思う。
「もう陽が落ちそうだね。そろそろ帰ろうか」
「そうね。……っ!!」
進行方向を転換しようとした瞬間、足のバランスが崩れて倒れそうになる。
恐らく履き慣れない靴を履いていた影響で普段との歩き方が変わり、自分が思っていたよりも足への負荷がかかっていたのだと思う。
「危ないっ!!」
姫城が私が倒れかけた方向に立ち、咄嗟に姫城の背中に手を回して抱きついていた。
「ご、ごめんなさい。ありがと……う」
身体を起こし、同時に姫城の背後の風景が見えた。
……そこには綾乃の姿があった。
そしてすぐさま走って去って行ってしまった。
「有馬さん? ほんとに大丈夫?」
突然の光景で動きが止まってしまった私を見てか姫城が心配そうに私に語りかけてくる。
「だ、大丈夫よ」
その後、私が帰りを急かすようにして帰宅した。
自分の家の玄関前へ着き、ドアへと手を伸ばす。
「なっちゃん」
背後から声が聞こえる。
声の主は言うまでもなく千里だ。
その声に反応した私は振り返る。
きっと千里は私が帰ってきたのを見かけて出てきたのだろう。
でも、今の私はどんな表情をしているのだろうか。
「な、なっちゃん……」
気づけば涙を流していた。
表情も恐らく崩れているのだろう。
原因はなんとなくわかっている。
それは姫城にフラれたことによるものと、綾乃に対する罪悪感のようなそんな感情が混ざり合っていた。




