第65話「覚悟を決めて」
「できたら一緒に来てほしい」
導き出した答えは私が思っていたよりも私らしくない言葉だった。
同時にそれが姫城を困らせるような言葉でもある。
だけれどそれでいい。
伝えずに後悔はしたくない。
たとえどんな結果になっても今の私が伝えられる範囲を伝えたい。
そんな気持ちが私の背中を押していた。
「え、えっと」
「流石に私一人じゃ不安だから……千里はその日いないし」
勝手に千里の名前を出したけれど、千里の予定なんて知らなかった。
でもそれで説得する材料は十分だ。
「……うん。わかったよ。情報を与えた手前、断るのも失礼だしね」
自身の発言に対して責任を感じているのかそう返事を返してくる。
「それじゃあ土曜日の……イベントが10時からだから9時に集合すれば間に合うかな」
「ええ。それで問題ないと思うわ」
「了解。それじゃあそのほか何かあればスマホのチャットで連絡するね」
約束を取り付け、一通り済んだところで私はその場を後にする。
来た道を引き返すと、校舎裏から裏庭に戻る曲がり角で桜田と鉢合わせる。
私たちはお互い何事もないようにすれ違う。
桜田は恐らく今までの話を聞いていた上で、話が終わるまで待機していたのだと思う。
それが彼なりの配慮の仕方なのだろう。
しばらく歩き、校舎の中に入る。
先ほどのことを思い出すと妙に顔が火照っていることがわかる。
普段の私らしくないと思いながらも落ち着いてから教室へと戻るのだった。
〜〜
そして時は流れ、土曜日の朝。
時間通りではあるが、集合場所となっていた駅前にはすでに姫城の姿があった。
「おはよう姫城、早いわね」
「有馬……さん? だよね?」
姫城が驚くのも無理はないだろう。
今の私は眼鏡を外してコンタクトにし、千里にメイクを施してもらってネックレスやベレー帽を身につけていることで普段の印象とは違う。
正直自分が一番驚いている。
まさか私がこんな姿になるなんて夢にも思っていなかったのだから。
「変……かしら?」
「あ、いや、そうじゃ無くて。普段と印象が違うからビックリしちゃって。すごく似合ってるよ」
普段から身なりを褒められることがないため、少し嬉しかった。
だから少し恥ずかしくなって姫城から目線を外す。
もうすでに慣れないことの連続であんまり頭が回っていなかった。
「とりあえず、電車に乗ろうか」
その後、電車へ乗って街中へ向かい、とどろきくんのイベントを堪能する。
途中で食事を取り、イベント後には噴水のある公園へと来ていた。
あまり実感はなかったけど、デートっていうのはこんな感じなのかしら。
初めてのことが多すぎて私には色々と新鮮に感じていた。
「私、今日だけで色々なことを体験したわ。絶対1人ではこんなところに来なかったし、それが千里だったとしても街中の距離を考えると断ってたかもしれない」
姫城だから来てみようと思えた。
姫城とだから苦手な場所に行って見ようとも思えた。
「それも全て姫城のおかげなのよ。だから、今日はありがとう」
「いや、俺は特になにも……」
「そんなことないわよ。覚えてるかしら? 初めて会った時のこと」
あの頃の私は今よりもずっと他人との関わりを持たない人間だった。
それ故に千里を除いて私に近づいてくる人はいなかった。
「私の姫城に対する第一印象はこいつとは絶対仲良くなれないだったのよ」
「それはひどいな……」
「でもね、そう思ってた私に対しても姫城はずっと気にかけてくれていた。姫城にとって私は単なるクラスメイトとか同級生とかそんな感じだったんだろうけど」
だからこそこの人は他の人とは違う。
「しばらくしてそれが姫城の優しさだって気づいて、気がついたらよく話すようになってたわね」
「優しさとか、別にそういうものじゃないよ。俺はただ自分が正しいと思ってることをしてるだけで」
それが私を変えたのよ。
それにあなたはずっと気づいていないようだけれど。
だから私は覚悟を決めた。
「姫城、聞いてほしいことがあるの」
「……うん」
私の声色が変わったからか真剣な目でこちらを見てくる。
「私は、姫城のことがすきなの。あなたとならこれまで以上に頑張れると思ってる。だから……」
胸の内に秘めた恋心。
話したいことはいっぱいあるのに、それ以上の言葉が出なかった。




