第6話「中間テスト準備期間」
時間は流れ、勉強会当日の放課後。
そよ風が吹き、木々が揺れる。
桜はすでに散り、緑葉を見せていた。
そんな中庭の近くにある自販機に綾乃は飲み物を買いに来ていた。
本来ならこのまますぐに梓の家へと行く予定だったのだけど、何やら姫城君が少し用事があるということで教室で待っているのである。
姫城君は先に行ってていいと言ってたけど、どうせならみんなで行った方がいいだろうという理由だ。
でも、姫城君の用事ってなんなんだろう?
紙パックのいちごミルクにストローを刺し、飲みながら教室へと向かう。
教室につくと、周りの生徒は姫城を除いた普段綾乃と一緒にいるメンバーだけとなっていた。
「姫城君はやっぱりまだみたいだね」
「まあ、あいつも結構大変みたいだからな」
何かを知ってるのだろうか、桜田がそう言う。
とりあえず教室に入り、自分の席に着席する。
「それより綾乃ちゃん、行儀悪いよー」
綾乃の手にあるストローの刺さったいちごミルクを見て梓がそう指摘する。
「これはその……我慢できなくて……あはは」
「ふふっ、綾乃ちゃん面白い」
微かに千奈は笑い、言葉を続ける。
「そう言えばみんなはどんな教科が苦手なの?」
その問いに対し、綾乃は現代文と英語、梓は数学と歴史、桜田は数学と理科と答える。
うまい具合に苦手な分野がバラバラな気がする……。
「……うん。とにかく頑張ろう!」
千奈ちゃんが前向きだ……なんだかちょっとだけ申し訳ない気分……。
できるだけ頑張ろうと胸に誓う綾乃であった。
20分くらい経った頃、教室の扉が開かれる。
「お前らまだ残ってたのか」
姫城かと思ったが、そこにいたのは彩咲だった。
「お前らもちゃんと勉強しろよー」
「大丈夫です!私たちこの後勉強会なので!」
自信満々に答える綾乃。
「お、そうだったか。それじゃあいい点採れよ。期待してるからなー」
それだけ言って彩咲は去って行った。
いったい何しに来たのだろう。
それと入れ替わるかのように姫城が教室へと入ってきた。
「残ってくれてたんだ。待たせちゃったかな?」
「ううん。全然待ってないよ!」
「なんか待ち合わせに時間丁度に来たけど彼氏が先に来ていた時の会話のようだな」
突然桜田がそう言いだす。
「くっ……待たせたこともあって言い返そうにも言い返せない……」
「まあまあ、とりあえず早くうちに向かおうよー」
梓が話を切り、梓の家へと向かうのだった。
綾乃の通っている通学路を歩き、Y字路の道に出る。
本来家に帰る道は来た道を右に曲がればいいのだが、今日は梓達の通学路である左へ曲がり歩く。
そしてしばらく歩くと、一軒の店へとたどり着いた。
「綾乃ちゃん。ここだよ」
「定食屋さんだ!」
「それじゃ入るぞー」
店内に入ると、店の人が出てくる。
「いらっしゃ…あら、梓お帰りー」
「お母さんただいまー」
「え!? 梓ちゃんの家って定食屋さんだったの!?」
「うん。そだよー」
驚きつつ店内を見渡すと、店名であろう『定食 さの屋』と書いてある。
「それじゃあ、こっちだよー」
店内の奥へと上がり、階段を上った奥の部屋に案内される。
おそらくここが梓ちゃんの部屋なんだろうなぁ。
「それじゃあ適当にくつろいでてー。あたしお茶とか持ってくるねー。あ、やっぱ翔も手伝って」
はいはい、と渋々ながら梓の後ろにつく桜田。
部屋に鞄を置き、座る。
「仲いいよね梓ちゃんと桜田君って」
「わたしもそう思う。もしかしてあの二人ってお付き合いしてたりするのかな……?」
どうやら千奈ちゃんも梓と桜田に対し私とと同じような雰囲気を感じていたようだ。
「二人はいつもあんな感じだよ」
先ほどから部屋の本棚の本を手に取って流し読みしていた姫城がそう答える。
「俺もあの二人とずっと一緒にいたけど、それでも多分あの二人は……」
「お待たせー。何の話してたのー?」
トレイにコップを載せた梓と、飲み物の入ったペットボトルを持っている桜田がそこにいた。
「いや、なんでもないよ。それより始めようか」
先ほどまでの話を切り上げ、姫城は鞄から教科書を取り出す。
その光景を見て、各々教科書とノートを取りだし、勉強会が始まる。
「ところで、梓と翔の苦手分野は知ってるけど、金森さんは何が苦手?」
「私は現代文と英語が……」
なるほど、と呟き、姫城は右手の人差し指を曲げて顎に当てる。
そして少ししてから千奈に話しかける。
「高垣さん、好きな教科ってある?」
「え? しいて言うなら数学だけど……」
「了解。それじゃあ数学が苦手な二人をお願いしてもいいかな?」
千奈はこくりと頷き、数学の教科書を開く。
姫城も現代文の教科書を手に取り、ページをめくり始める。
「とりあえず、軽く問題出してみるから書いてみて」
それから言われた通り、問題をノートに書いていく。
しばらくして、ひと段落着いたところで休憩を挟むこととなった。
姫城に教えてもらっていた綾乃は少しずつではあるが、現代文を理解できていた気がした。
「姫城君って教えるのうまいね!」
「そ、そうかな……」
綾乃がそう言うと、コップを持っている姫城はそっぽ向いてしまう。
「千奈ちゃんも教えるのうまいよー!」
「俺も驚いたぞ……小一時間ほどでここまで解けるようになるとは……」
「そ、そんなことは……」
千奈は照れていた。
「わたし、褒められたことがあんまりなかったからちょっと照れくさいかな」
そんな感じで一日目の勉強会は終了していった。